私のアトピー性皮膚炎の治療
    高知県 佐々木医院/佐々木 知良

皮膚の変化はじかに見られるので、医師や患者にとって皮膚病の治療は明解である。また、方剤の運用を経験するうえで格好の場でもある。とりわけ成人型のアトピー性皮膚炎(AD)の治療は困難でそのほとんどはステロイドからの離脱にある。AD は文明病ともいわれ治療の歴史はまだ浅く、多数の患者に共通する有効なものはない。
漢方医学的アプローチは薬害や体質 改善の面からも理にかなう優れた治療手段であり、将来への展望が期待される。AD は皮膚 (肺)と皮下組織(脾)の病変であり、特に脾のコントロールが重要である。消化管の未熟な 幼小児の皮疹は大部分が補中益気湯・小建中湯・人参湯などでよくなる。
症状はライフサイクル、季節等により微妙に変化する。今の治療が適切であるか否か判 断にしばしば迷う。治療はあくまでも「患者が主役で医師は脇役」である。「よくなる」「ならない」は患者次第で、自分のライフスタイルや食を正さない限り治療は成功しない。 「よい治療」とは、医師と患者の連携、コミュニケーションにつきる。保険診寮の3分間ではどうにもならない。
どくだみ、びわの葉、よもぎ、にんにく、健康茶などの民間療法は症状を悪化させ、しばしば漢方治療の妨げとなる。これを黙認してはまともな漢方治療はおぼつかない。治療にあたってライフスタイルの改善、食べ物の指導は、ことさら重要である。
農薬汚染食品、食品添加物などのアレルギー食品とわかっていても現在の流通でこれを避けることは難しい。牛乳、卵、肉、大豆製品など、食べてみて悪ければとらねばよい。高脂肪、高蛋白食、味付けの濃い食物のとり過ぎは脾胃の運化を失調させ、湿熱発生の原因となる。
体を熱くするアルコール、香辛料は禁止、体内に湿をよぶ砂糖、塩分は少な目に、発疹を誘発するエビ、カニ、タケノ コに注意する。副食は野菜、魚を中心に腹七分。便秘は症状を確実に悪化さす。下痢するタ イプの皮膚病は治しにくい。便通は一日1〜2回で有形軟便程度を可とする。夜更かしは脳や自律神経を興奮させ体を痒くする。
脈診・舌診は重要で体内の情報がよくわかる。湿熱が皮膚への栄養を阻害すると表皮は 濡養されず乾燥落屑する。これには裏の湿熱を除く方剤を選択し、表皮は軟膏で保護すればよい。習慣的に脈や舌を診ていれば判断を誤ることは少ない。
ステロイドの長期使用は腎陰を脅かし、体表にとどまるべき湿熱を潜入させ治療をこじらす。「リバウンド現象」はステロイドの「押さえ」がとれて蓄積された病邪が一度に外へ噴出したものであり、生体防禦上、自然の成り行きともとれる。しかし、リバウンドは発症があまりにも急激で患者の苦痛不安は大きい。できるだけ緩やかに症状の軽減をはかってやらねばならない。
ステロイドの少量・間歇使用は生活行動をすばらしく改善するだけに魅力的である。しかし、いくら歳月がかかっても、ステロイドの離脱なくして AD の完治はあり得ない。私は離脱のファーストチョイスとして四逆散合竜胆瀉肝湯合黄連解毒湯(または三黄瀉心湯)を多用している。
四逆散はストレス解除に、竜胆瀉肝湯は清熱・化湿・利水に、黄連解毒湯(または三黄瀉心湯)は清熱に働く。これでリバウンドの多くは3〜4週後に沈静化する。その後は証に隨い症状の安定をはかる。経路の走行と一致した発疹をみることがある。体の前面、鼻や額(胃経)では 半夏瀉心湯、体の側面や頬では(肝胆経)で竜胆瀉肝湯、体の後面(膀胱経)では猪苓湯など 単一的に考えた治療も面白い。
AD 患者の皮膚は過敏で、バリアも弱い。皮膚保護のため外用薬は必要である。乾燥であれば紫雲膏、発赤湿潤には太乙膏、感染があればイソジンで皮膚消毒して中黄膏または太乙膏を塗る。
AD は単一の原因による単一の疾患でなく体質、年齢、ストレス、アレルギー、食物、季節、気象、感染など多くの原因が重複して発症する症候群である。治療がうまくゆかない時はこれらの環境やライフスタイルについて考えてみる。私は純漢方医学を志している内科医である。全ての皮膚病をうまく治せる自信はない。 しかし、長年の試行錯誤で以前と比べて格段に「治し上手」になってきた。
以上、思うところを 2、3について述べてみた。
佐々木 知良 (ささき・ともよし)
1957年、 広島大学卒業。
広島大学医学部第2内科、広島ABCC、広島県立戸河内病院、高知県本川村国保診療所、高知市天王病院を経て1979年佐々木医院開業、現在に至る。
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