末梢性モルヒネ鎮痛
    長崎大学薬学部教授/植田 弘師

モルヒネ鎮痛は中枢作用によるものであると考えるのが医学に関わる人の常識であるといえるかと思えるが、そんなモルヒネ作用に末梢性の鎮痛効果があることが最近注目されつつある。私自身、モルヒネや鎮痛の研究に関わり20数年になるが、今さらにしてこのような大前提に関わる研究をするとは数年前までは考えもしなかった。
私が京都大学薬学部の当時高木博司教授の研究室でいたころは、1970年代初期 の研究から、モルヒネは延髄を始めとする下位脳幹部にその作用点を有し、脊髄への下降性抑制神経系を活性化すると教えられ、また自らもその研究にも関わってきたからである。
また、少し遅れてモルヒネやオピオイドペプチドは脊髄の後角にも作用し痛みの伝達物質であるサブスタンス P の遊離を抑制するという有名な研究が報告され、すくなくとも脳か脊髄がその作用点であることは全く疑う余地もなかったし、モルヒ ネ全身投与についていえばそうした結論は今も正しいと考えている。
ところが、古くには1980年初期にモルヒネをメチル化し4級にすることにより脳移行を抑えた化合物についてもしかるべき鎮痛効果が残るなどの知見から、末梢性モルヒネ鎮痛の可能性が示唆され、最近では、実際にモルヒネを末梢局所に投与するこ とによる同側に与えた痛み刺激や発痛物質の効果を抑えるが、反対側のものは抑えない という、より直接的な証明がなされている。
私たちも、より簡便で感度よい末梢性鎮痛効果を調べる方法を確立し、in vivo での情報伝達機構の解明を行っている。ブラジキニンの発痛効果について B2 受容体を介し、Gq 蛋白質とホスホリパーゼ C の活性化、IP3 による知覚神経末端部へのカルシウム流入、脱分極を介する活動電位発生までを証明する数々の知見を得ている。モルヒネなどのオピオイドもブラジキニン発痛を抑え、Gi を介した作用であることが明らかになっている。
結論的に言えば、この Gi が Gq の効果に拮抗するという仮説を提案し、別の実験ではその仮説を支持する知見を得ている。い ずれにしても興味あるのは、この末梢性モルヒネ鎮痛は耐性形成されにくく A 全身性 にモルヒネ連投し、tail pinch 法などで耐性形成が認められているマウスにおいてもこの末梢性効果は影響を受けないという知見を得ていることである。つまり、単一の 細胞レベルで耐性を考えることができないことを示している。
末梢性にはなく中枢性の鎮痛にのみ認められる耐性という現象を考えたとき、中枢での神経回路の複雑さがその原因であることは容易に理解されるが、私たちはモルヒネ効果を抑える神経系によるシナプスの可塑的変化がそのメカニズムの基礎にあると考えている。実際、最近発見されたノシセプチ唐という抗モルヒネ活性を有する内在性ペプチドの受容体遺伝子を欠損させたマウスにおいてこのモルヒネ耐性の減弱を明らかにしている。
このように、モルヒネ耐性とシナプス可塑性は今後の新しい研究テーマとなるであろう。もうひとつ関連する研究で興味あるのは、オピオイド性アルカロイドがアポトーシスによる抗がん活性をもつという話題である。現状においてこれらのアポトーシス誘発に必要な用量は全身投与による鎮痛を考えたときには少し高いと考えられるが、局所投与を行うならば鎮痛と抗がんの両臨床応用の可能性を合わせ持っている。私たちは共同研究者の協力を得て、耐性形成のない末梢性鎮痛薬でしかも抗がん作用のある化合物のさらなる探索を続けている。
私たちはこのテーマに関する研究会を計画しておりますので、興味ある研究者のご連絡を期待しております。
益田 俊樹 (ますだ・としき)
〒852 長崎市文教町 1 - 14
長崎大学 薬学部 分子薬理学教室
電話 0958-43-0901
FAX 0958-44-4248
E-mail ueda@net.nagasaki-u.ac.jp
INDEX
TOPWhat's 帝國製薬製品情報会社情報採用情報医療関係者のみなさまニュースリリースサイトマップ
Copyright (C) 2008 Teikoku Seiyaku co.,ltd. All Rights Reserved.