ステロイド外用剤を塗布すると皮膚は黒くなるか?
    徳島大学医学部皮膚科講師/滝脇 弘嗣

ステロイド外用剤(ス剤)を使うことがまるで社会悪のようにマスコミなどで伝えられ、“治療にス剤は使わないでください”と患者に注文されることがある。また、皮疹がよくならないのでおかしいなと思っていると、処方したス剤を使ってくれていない場合もある。知人に(医療関係者の場合も結構多い)“これはス剤だから使ったら副作用がでる”と言われたからという。書店に山積みされている“アトピー性皮膚炎”についての本の中には、ス剤は悪魔の薬である、と断定しているものまである。
確かにス剤をアトピー性皮膚炎や乾癬など、慢性に経過する疾患に連用していると、麻薬のごとく依存性を生じ、中止による禁断症状は並大抵でない。しかし、原因のはっきりした重症の接触皮膚炎の場合など、ス剤を拒むのは自ら拷問を望むようなものだ。
中には副作用をよく勉強されている患者もいる。しかし、ここ徳島県の女性患者は、塗ったところが副作用で黒くなる、あるいは陽にあたるとシミになるらしいからス剤がイヤだ、と答える人が圧倒的に多い。これは本当だろうか。日常診療での実感では、強力なス剤を使用して早く炎症をひかせるとその後の色素沈着の程度は軽くすむ。ス剤を長期塗布している慢性の痒疹などの患者では、露光部の皮疹の周囲は黒くならず、正常部皮膚より白い(低色素な)斑がハローのようにみられることが多い。
筆者らは正常被験者に紫外線を照射し、一週間後の色素沈着の程度がス剤塗布部とその基剤塗布部でどう違うか検討してみた。結果は照射前、照射後いずれに塗布しても、ス剤塗布部位の紫外線による色素沈着は抑制され、しかも強力なス剤ほど抑制効果は強かった(日皮会誌107,955,1997,J Invest Dermatol 103,642,1994)。
疾患の種類にもよるだろうが、ス剤は炎症を抑制することによって、その後に生じてくる色素沈着(炎症後色素沈着)を軽減すると考えるのが妥当であろう。ス剤の能書にも、色素脱失の副作用は記載されているが、色素沈着はない。
それでは、“ス剤を塗ると黒くなる”という情報はなぜ生まれたのだろうか。成人のアトピー皮膚炎(たいていス剤を使用している)で、dirty neck やさざ波様色素沈着とよばれる頚部周辺の色素沈着がしばしばみられること、ス剤を長期間顔面に連用して生じた酒さ様皮膚炎の患者で、外用を中止させると禁断症状で顔が1〜2週間ほど真っ赤に腫れ上がった後に、強い色素沈着を生ずる例が多いことがあげられるかと思う。
前者の場合、ス剤との関連は不明であるし、後者ではス剤が要因であったのは結果論としては正しいが、塗っている間は黒くならないのだから色素沈着がス剤によって生じたとは言いがたい。いや、もっと単純な理由かも知れない。炎症後色素沈着が湿疹・皮膚炎の治癒後の必然的経過として生ずるのは皮膚科医なら常識である。
しかし、患者はそう考えていないかも知れない。“治ったあとが黒くなりました。ス剤を使ったからではないですか”と時に聞かれるからである。質問する患者がいるぐらいだから、ス剤で黒くなったと言いふらしている人がいても不思議ではない。都合の悪いことはス剤=社会悪のせいにしたくなるものである。このような方には、ス剤を使ったのでこの程度ですんだのです、と答えるようにしている。
副作用ばかりが強調されて悪玉イメージが定着したためか、あるいは技術的に行き着くところまで行ってしまったためか、ス剤の新製品開発の話も聞かなくなった。濫用が是正されるのは喜ばしいことであるが、ス剤があらぬ罪まで背負わされて、医療不信のスケープゴートされないように望みたい。
滝脇 弘嗣 (たきわき・ひろつぐ)
1979年 山形大学医学部卒業
1982年   徳島大学医学部皮膚科助手
1986~1988年   高知日赤皮膚科
1991年   徳島大学皮膚科講師 現在に至る
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