Streptcoccal toxic shock syndrome にて死亡した
アトピー性皮膚炎成人例
    川崎医科大学皮膚科助教授/幸田 衛

不十分な皮膚管理が誘因となり、劇症型A群レンサ球菌感染症が発症した症例を経験した。不幸な転帰をとったアトピー性皮膚炎成人例であったが、我々皮膚科医にとって留意すべき教訓的な症例と思われるのでここに報告する。
症例
41歳、女性。小児期よりアトピー性皮膚炎があり、36歳頃から重症化し、漢方薬や民間療法を主に治療されていた。
1997年8月に2日間温泉療法を受けた後、両下肢に浮腫、発熱、下痢が出現した。急速に症状は悪化し、3日後にはショック状態となった。近医受診後、救急車にて当院に搬送されたが、その直後に呼吸停止、心停止をきたした。蘇生後、ICU にて抗生剤、持続血液濾過、エンドトキシン吸着法を含む集中的治療を施行したが、第11病日で死亡した。
検査では血小板2,000/μI、CPK29,940IU/I、ミオグロブリン224,000ng/I と顕著な異常値を示し、血液、尿、皮下組織のすべてから Streptococcus pyogenes が培養された。来院時、顔面、体幹の皮膚は乾燥粗造で Nikolsky 現象は認めなかったが、第2病日の大量輸液後には著明な浮腫のため易剥離性となった。
四肢は腫脹し、血疱、びらんが広範囲に存在し、急速に壊死に陥った。循環動態改善が困難で、壊死巣が50%以上と広範囲なため debridment は施行できなかった。Necropsy では、皮膚、皮下脂肪織内血管の septic vasculitis、筋肉の虚血性壊死、球菌コロニーの存在する細菌性肺炎、ミオグロブリンの閉塞による尿細管壊死像がとらえられた。
考按
Streptcoccal toxic shock syndrome は最近話題になっている A 群溶連菌感染症で、多くは健常者に発症する。微細な外傷を侵入門戸とし、急激に敗血症から多臓器不全に陥る致死率の高い疾患である。皮膚症状としては紅皮症や、菌が浸入したと思われる部位の発赤、腫脹、水疱、続いて壊死性筋膜炎へと進行することが多い。
湿疹皮膚炎群と本症とが関係した症例も、最近報告されている。谷垣らの症例では多発性結節性痒疹の成人例に本症が発生しており、自験例と同様に死の転帰をとっている(1)。栗原らの症例はアトピー性皮膚炎成人例で壊死性筋膜炎が発症し患指を切断せざるを得なかった(2)。
発症誘因として、副作用を心配しステロイドによる治療を自己中止し、皮疹が急激に悪化したためと述べている。アトピー性皮膚炎患者が特別に溶連菌に対して免疫不全状態になっているということは考えにくく、不十分な皮膚炎の管理のため菌が浸入しやすい状態であった、と考える方が妥当である。
自験例も、ステロイド剤の使用を拒否していたとのことである。紅皮症化しているにもかかわらず、真夏に温泉療法を受けたことでよけい経皮感染しやすい状態になったものと思われる。温泉が溶連菌の発生源であるという確証は得られていないが、可能性は高い。
マスコミによるステロイドの副作用報道、それを強調して受けとる患者側、さらには驚くべきことに、それに同調しているかのような医師までもが現れている現況を考えると、我々皮膚科医も“一般の人が病気をよく理解する一過程としてしかたのない時期”と黙っているわけにはいかない。今回のような不幸な症例を経験することのないよう、アトピー性皮膚炎患者には皮膚管理の重要性を十分に説明し、理解していただくよう努める必要があると感じた。
本文の主旨は第97回日本皮膚科学会、第213回岡山地方会にて報告する予定である。
〈参考文献〉
(1) 谷垣武彦、他:急激な経過で死の転帰をとったStreptococcal toxic shock syndrome:皮膚病診療、19(3),223-236,1997
(2) 栗原伸之、他:副腎皮質ホルモン含有軟膏外用中止後のアトピー性皮膚炎患者に生じた壊死性筋膜炎:皮膚科の臨床、38(1),147-150,1996.
幸田 衛 (こうだ・まもる)
1950年 徳島生まれ
1976年   川崎医科大学卒業、同大学皮膚科に入局
1979年   米国ミネソタ大学にて3カ月間研修
1982年   川崎医科大学大学院にて免疫病理学を修め、同大学皮膚科講師に着任
    独ミュンヘン大学にて3カ月間研修
1989年   川崎医科大学皮膚科助教授に就任 現在に至る
専門分野
皮膚科病理組織学、膠原病、血管炎
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