Public education for melanoma
    熊本大学皮膚科講師〈ニューヨーク医科大学客員教授〉/影下 登志郎

メラノーマが皮膚科で扱う疾患のうちで、最もタチが悪いことは学生講義時代より教え込まれている。この10年、この厄介な病気が欧米では倍増、米国では1997年には新患43000名、 死亡者数は7300名にのぼると予想されている。実に1時間に1人の割合で死亡していることになる。 この発生頻度の増加率は悪性腫瘍の中で人類史上最も高いと言われている。
その原因のひとつとして紫外線が挙げられているのは周知のことである。欧米では紫外線を避けるのは当然のことであり、国や学会がその危険性をマスコミやパンフレットを通じて国民に呼びかけている。
非常に迅速であったフロンガス規制は地球規模で行われたメラノーマ対策と言っても過言ではない。その結果、発生頻度の低下はまだみられないものの、比較的早期に受診する患者の割合が増加しているとの報告が欧米やオーストラリアで、相次いでいる。メラノーマは早期であれば生命予後はけっして悪くないので、これは朗報である。
日本人の皮膚は幸い紫外線には比較的強いのでメラノーマの発生頻度は欧米の1/10から1/20である。しかし、症例数は確実に増えている。熊本大学医学部付属病院皮膚科では表皮内に限局しているごく早期のメラノーマを含めると新患は年間約20例である。
早期で受診してこられるとホッとするが、どうしてここまで放っておいたのかと驚くような患者さんもいる。「自覚症状が何にもなかったので」「皮膚病にガンがあることなど知らなかった」「皮膚病で死ぬんですか?」などなど。
一般の方にとっての皮膚病はミズムシ、タムシに円形脱毛症程度の事であろうか。確かに新聞や雑誌で癌といえば胃癌、肺癌、子宮癌が定番で皮膚癌はやはり扱われることは非常に少ない。つまり、健康雑誌の愛読者以外の日本国民はメラノーマなる怖い皮膚病があることすら知らないのであろう。
平成9年の秋以降、自らメラノーマを心配してかかりつけの病院や直接当科を受診して本当にメラノーマであった例が3〜4例続けてあった。患者さんに話を聞くと、お昼の「みのもんたのテレビ番組」でメラノーマが話題になり、それを見て心配になり受診したとのことである。幸い全例早期であった。
メラノーマの好発年令は中年以降である。みのもんたのファンも彼には失礼だが中年以降である。両者の対象年齢がうまく一致し、早期受診につながったものと思う。患者さんだけでなく、治療する側も彼の高視聴率番組でメラノーマを取り上げてくれたことを感謝すべきだと思う。医師とアナウンサーがテレビで解説する番組もあるが、どうも堅苦しい。しかも、視聴率が高いとは思えない。どうも健康雑誌愛読者ご用達である。
メラノーマの研究は世界中で競って行われている。最先端のガンペプチドワクチン療法や遺伝子治療も先陣をきってメラノーマに対して行われている。私共もメラノーマの治療や研究を土日返上で行っている。しかし、これらの研究が患者さんの予後改善に大いに寄与しているとは残念ながら言い難い。現時点では早期発見、早期治療に尽きる。つまり、Public education が極めて重要なのである。
みのもんたに public education のありかたを見たような気がする。メラノーマは自分で気づくことができる癌である。気づくためには、メラノーマという怖い病気があることを知っていなければならない。それを教えるのは皮膚科医の極めて重要な務めであると思う。しかも効率よく。
影下 登志郎 (かげした・としろう)
1952年4月24日生まれ
1977年3月 川崎医科大学卒業
1977年4月   熊本大学医学部皮膚科入局
1982年3月   熊本大学医学部皮膚科助手
1984年7月   国立がんセンター病院皮膚科(1年)
1986年4月   米国ニューヨーク医科大学微生物免疫学教室へ留学(2年)
1988年8月   熊本大学医学部付属病院講師(皮膚科)
1996年2月   ニューヨーク医科大学客員教授併用任 現在に至る
1991年~   厚生省がん研究班会議班員
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