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| 30年前、恩師野上寿先生が東大を定年退官され、私も東大から星薬科大学に移った。私達の粘膜付着性製剤の開発の基になるヒドロキシプロピルセルロース(HPC)の研究のきっかけは、その前に起ったことである。 |
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| 当時、HPC の日本での用途開発を手がけていた日本曹達は、その医薬への応用には、それの日本薬局方への収載が先決と考えた。そのため、HPC の医薬品添加物として有用性を示すデータを整える必要があった。その頃、私の親しい兄貴分の野口照久先生が日本曹達におられた関係で、その研究データをつくる話が私達のところに持ち込まれた。ところが、時期は東大紛争の真っ最中で、産学協同まかりならぬ、という雰囲気であったため、その研究に踏み込むことに躊躇させられ、とくに進展はなかった。 |
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| そうこうするうちに、前述のように私は星薬科大学に移った。そこは、授業料値上げ反対など多少学園紛争みたいなことはあったものの、 産学協同反対を唱える者などはいない極めて自由な天地であった。 |
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| さらに幸運だったのは、既に町田良治助手(現教授)が、私が担当することになった薬剤学教室に勤務していたことである。彼は研究意欲旺盛で、それまで研究らしいことをやったことがないから是非とも私と一緒に研究したい、と強い願望を示した。私は、私学へ行ったら研究を続けることはあきらめねばなるまいと思い込んでいたので、目を覚まされた思いがした。そこで彼に与えた研究テーマが、前からいきさつのある HPC の研究であった。 |
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| そのとき、HPC の用途開発は日本曹達から帝人に移譲されていたので、帝人との共同研究となった。 まず直接打錠用の剤賦形剤としての可能性を検討することであった。それは、繊維会社の通常の発想として、大量に使う用途に関心があったからである。 言わば、第二のアビセル(結晶セルロース)をねらったものである。 |
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| ちなみに、以前私が野上先生のもとでアビセルの研究に携わった経験があることにも帝人は関心を寄せた。私は町田助手に、海のものとも山のものとも分からないこと、泥沼にはまり込んで結果が得られないかもしれないことを念を押したけれど彼はやってみると張りきっていた。私は、研究者のなかには泥沼を避けて通り、早くきれいな結果を出したがる者が多いことを知っていたので、彼の勇敢さを印象深く覚えている。 |
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| 結論として、町田助手の研究成果は、HPC が直接打錠用の剤賦形剤として使えることを示す論文として発表されたが、とてもアビセルには実用上色々の面で太刀打ち出来るものではなかった。ところが、研究の過程で、つくった錠剤が"のどちんこ"にくっついて咽を通らない、と彼が話すのが私の頭にピンと来た。 |
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| 実は、これが大発見だったのである。HPC が直接打錠用の剤賦形剤としてアビセルにはかなわないとしたら、この“くっつく性質”を利用すれば新しい用途が開けるかも知れない、というところから、HPC による粘膜付着性の研究が始まった。デンタルコーンに使われるカーボポールを配合すると、さらに強い粘膜付着性が発現することなどわかった。 |
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| あるとき、私がふと思いついたことがあった。私の研究室には卒業生が多く、それにともない結婚披露宴に招かれることも多い。 一日に2回披露宴に出ることもめずらしくない。すると、翌日大概口内炎ができる。ふと思いついたこととは、 上述の HPC による粘膜付着性財形を利用すればこれに効くくすりが出来るかも知れない、というこであった。 |
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| ここから、帝人株式会社生物医学研究所の鈴木嘉樹博士を中心にアフタ性口内炎の治療を目的とした付着錠として実用化が検討され、ついに厚生大臣より新薬としての製造承認が与えられるに至った。販売名を「アフタッチ」と呼び、この発展として「リノコート」「サルコート」が生まれた。これらは、私が私学の教師になったおかげであろう。 |
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| 永井 恒司 |
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(ながい・つねじ) |
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1956年東大医学部薬学科卒業、同大学院を終えて東大助手
アメリカのコロンビア大学とミシガン大学に留学
1971年星薬科大学教授
1999年3月定年退職し、星薬科大学名誉教授に |
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| ●国内役職 |
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星薬科大学、日本薬剤師会、日本薬学会等の理事、
日本薬剤学会およびシクロデキストリン学会それぞれの初代会長等を歴任 |
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| ●国内受賞 |
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日本薬学会賞・シクロデキストリン学会賞、全国発明賞等多数
紫綬褒章受章 |
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| ●国際役職 |
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国際薬学連合(FIP)副会長、
国際コントロールドリリーズ学会(CRS)会長(欧米以外で初)、
日本政府の援助によるビルマ製薬研究開発センター(DCPT)プロジェクト
国内委員長等を歴任、中国薬学会名誉会員(外国人初)、
中国の4大学の名誉教授、オランダのライデン大学名誉教授、
トルコ国立ハセテペ大学名誉博士 |
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| ●国際受賞 |
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国際薬学連合(FIP)金メダル学会賞ヘストマドセンメダル(日本人初)、
米国薬学会賞、国際薬学連合(FIP)Millennial Pharmaceutical Scientist Award 等多数
功績をたたえて、国際コントロールドリリーズ学会 CRS Nagai Innovation Award
および The Nagai Award Thailand for Research が設けられている |
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