疥癬(かいせん)第1話
疥癬虫の生態と「かゆみ」について
    香川医科大学附属病院皮膚科講師 /沼原 利彦

疥癬(かいせん)は、疥癬虫 Sarcoptes scabiei(ヒゼンダニ)が皮膚に寄生することによっておきる痒みの強い皮膚病です。わが国では、終戦直後に大流行した後に下火になっていましたが、ここ20〜30年、いわゆる老人病院や老人施設などで集団発生がみられています。
最近、私自身が日常診療の中で感じることは、介護保険制度によるお年寄りの移動や介護者の移動に伴って家庭や他施設への飛び火現象も深刻になってきているのではないかということです。
なぜ日本のような国(経済的に豊かで、公衆衛生や医療も発達しているはずの国)で疥癬の流行が続いているのか? これには、疥癬の生態や宿主との関係、わが国では有効な駆虫薬が治療薬として認められていない、いわゆる老人病院や老人施設では皮膚に症状があっても皮膚科医が診るわけではない、医療介護施設やスタッフの疥癬への認識不足など、さまざまな要因が考えられます。
第1回目の今回は、疥癬虫の生態と「かゆみ」についてお話ししたいと思います。
疥癬虫の雄は、交尾後、死に至ります。疥癬虫の雌は0.3mm〜0.5mm程の体長で、雄と交尾・受精後に皮膚の角層にトンネルを掘って潜り込みます。角層内で毎日少しずつ(一日に約2mm)トンネルを掘り進みながら、一日1〜3個の卵を1〜2か月間産み続けたあと、死に至ります。卵は3〜5日で幼虫になり、幼虫は2週間程で成虫になります。幼虫や雄は皮膚の表面をうろついているだけです。
疥癬虫は、飛んだり跳ねたりしません。人肌の温度だと1分間に2.5cm程動くともいわれていますが、人肌から離れて温度が下がると、ほとんど動かなくなります。また、乾燥に弱く、虫体は人肌から離れると2〜3日で死んでしまいます。ただし、湿度などの条件が良いと2週間程度生存する場合もあるようです。このようなことから、疥癬は、直接肌と肌が触れ合うような環境や、布団、寝具、衣類などを介して感染することになります。
疥癬虫は、温度50℃約10分で死滅します。布団、寝具、衣類に付着する虫体や虫卵を短時間で確実に死滅させたい場合には、50℃以上のお湯につけるのが一番効果的とういことになります。このほか、日光干しや乾燥機を使用するのもよいでしょう。
疥癬虫は人肌に寄生しますが、血を吸ったりしているわけではありません。疥癬虫の食べ物は、フケやアカ、チリ、食べかすなどです。疥癬は、とてもかゆい病気ですが、疥癬虫に刺されてかゆいのではなく、肌にいる疥癬虫や糞に対してアレルギーのような反応がおきるようになってかゆくなります。初めて疥癬虫に寄生されて、体にアレルギー反応がおきる(感作される)が起きるまで2〜4週間かかります。
2回目以降は、早期からかゆみがあらわれるようになります。これとは逆に、効果的に疥癬虫を殺す治療を行って肌に寄生していた疥癬が全滅したとしても、角層内に死骸や糞が残っている間はかゆみに悩まされることがあります。
言い換えると、初めて疥癬虫に寄生された場合には、2〜4週間はかゆみや不快な症状がないわけです。かゆみの症状がでたときには、すでに同居の家族にはうつっていると考えたほうがよいでしょう。このことが、疥癬が広がりやすい理由のひとつになっています。
次回は、疥癬の治療法についてお話したいと思います。
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沼原 利彦 (ぬまはら・としひこ)
1986年 香川医科大学卒業(第一期生)
1986年   同大学附属病院皮膚科研修医
1987年   同大学医学部内科学講座皮膚科学助手
2000年   同大学附属病院皮膚科講師・副科長、現在に至る
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