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| 疥癬虫を顕微鏡で見ると、とても「きゃしゃ」な足をしています。角層にトンネルを掘ってその中にいる交尾後の雌以外、つまり雄や幼虫はその「きゃしゃ」な足で皮膚の表面(+下着などの内面)をうろうろしています。疥癬患者の皮膚で疥癬虫が急に増えるためには、雄と雌が頻繁に出会うことが必要でしょう。 |
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| 健康な人が毎日風呂にいって石けんで体を洗う生活(もちろん下着や寝具もマメに替える)をしている場合、皮膚の表面にいる疥癬虫は入浴時にある程度は取り除かれるでしょうから、少数の疥癬虫が寄生したとしても急激に疥癬が増えることは少ないと思われます(普通の疥癬では、患者一人あたりの疥癬虫の寄生数は数百匹のレベル)。 |
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| これとは反対に、体が弱って寝たきりで入浴もなかなかできないような人では、疥癬虫が増えやすい状態にあるといえるでしょう。 |
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| いわゆる老人病院や老人施設などでは、抵抗力の落ちた方、マメに入浴できない方が集団で生活されています。このような施設では、皮膚科専門医が常勤あるいは非常勤でも定期的に回診していることは少なく、皮膚病の多くを皮膚科医以外がみていることが多く、疥癬の診断が遅れがちです。 |
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| 基礎疾患を持ち、入浴もできないお年寄りの疥癬を湿疹と誤診して、ステロイド軟膏の外用を漫然と行っていると、疥癬虫が急激に増加して一人あたり百万匹を越える寄生数になります。こうなると見た目にも厚いカサブタがついたようになり、ノルウェー疥癬、あるいは痂皮型疥癬、角化型疥癬と呼ばれる状態になります。 |
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| 普通の疥癬の場合には健康な人々に対する感染力はそう強くありませんが、ノルウェー疥癬の場合には、無数ともいえる疥癬虫や虫卵が患者の皮膚にいて、衣類や布団にも飛散しているため、感染力は驚異的です。施設でノルウェー疥癬患者が出た場合、すでに多くの入所者やスタッフに感染が広がっていると考えたほうがよいでしょう。 |
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| さて、発生した疥癬を終息させる第一歩は、皮膚の症状から疥癬を疑い、検鏡で疥癬虫や虫卵を確認して疥癬の診断をすることができる、経験ある皮膚科の診断を受けることが必須です。疥癬の診断がつかぬまま疥癬が蔓延したり、疥癬を恐れるあまり漫然と疥癬の外用を続けて接触皮膚炎をおこし、痒みが続いている場合もみられます。 |
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| 疥癬の外用薬は、大なり小なり皮膚に刺激があったりカブレをおこしたり、幼小児や妊婦には禁忌のものがあったり、使用法を守らないと皮膚炎のみならず全身への影響もあるものです。診断と治療に、皮膚科医の協力が欠かせません。 |
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| それでは、疥癬治療のいくつかのポイントをあげてみましょう。 |
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| ■健康な外来患者の場合 |
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| 第2話でお話しした疥癬虫を殺すためのお薬を首から下に外用します。外用はていねいに時間をかけて、指の間から指先、おしりの割れ目、シワの間、足の裏も含め、一点の塗り残しもないようにしなければなりません。 |
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| 安息香酸ベンジルやγ−BHC(ガンマ−ベンゼンヘキサクロライド)などの、疥癬虫を効果的に殺すためのお薬を使う場合も、卵には効かないので卵がかえるころをみはからって、5〜7日後にもう一回外用するのが大切なポイントです。 |
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| 第1話でお話ししたように疥癬がうつっていても、1か月近くは痒みなどの症状が出ません。寝起きをともにする家族は痒みがなくても全員が同時に治療を受ける必要があります。 |
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| 毎日入浴し、肌着、寝間着、シーツは取り替え、洗濯すること。布団や居室はすみずみまで丁寧に掃除機をかけ、布団はできるだけ天日干しにすること。天気の悪い日が続くときの、布団や衣類の扱いとしては、疥癬虫は熱に弱いので乾燥機やアイロンを利用するのもよいでしょう。 |
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| バルサンのような燻煙型の殺虫剤を、1週間あけて2回利用するのも一法かもしれません。 |
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| ■施設での集団発生 |
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| 疥癬患者が出た同室者の方(1か月前までさかのぼって)は、症状がなくても一斉に治療したほうがよいでしょう。患者の家族にも注意をはらってあげる必要があります。 |
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| できるだけ入浴させ、寝間着やシーツ、布団カバーは、毎日取り替えたほうがよいでしょう。マットレスも、天日干しか乾燥機にかける必要があります。シーツなどは、静かに取り替えないと、虫や卵をまき散らすことにもなりかねません。ベッドや床の清潔も大切です。バルサン等を利用してもよいかもしれません。 |
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| 浴室やストレッチャーも、とくにノルウェー疥癬患者が利用したあとは、50度以上のお湯をかけるなどして、消毒することを忘れてはなりません。 |
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| 介護スタッフは、日々のケアで濃厚に患者に接するため、感染を受けている可能性大です。痒みの症状がなくても、一度、一斉に治療を受けることも考慮したほうがよいでしょう。スタッフの家族も治療が必要な場合があります。 |
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| 介護者は、患者ごとに使い捨て手袋を使用し、ノルウェー疥癬患者の介護の場合にはガウンまで必要です。石けん手洗いも重要です。 |
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| 施設で発生した場合には、上記のことを一斉に行うことが最大のポイントです。 |
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| ■ノルウェー疥癬 |
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| ノルウェー疥癬は、並の治療で治すことはできません。ノルウェー疥癬患者では100万匹を越える疥癬虫が寄生しているので、診断された時点ですでに介護者を含む多数の人へ感染していると考えなくてはなりません。 |
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| ただし診断は、ノルウェー疥癬を疑って鱗屑や痂皮を採って検鏡さえすれば、皮膚に無数に虫がいるので簡単です。皮膚にセロテープを貼ってはがしたものを検鏡するだけでも、多数の虫体や卵をみつけることができる場合すらあります。(普通の疥癬では、寄生数が少なく、皮疹の全てに虫がいるわけではないので、訓練された目で疥癬トンネルの先を狙ってメスやはさみ、鋭い鑷子等で採るなどしないと虫をみつけることができません) |
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| ノルウェー疥癬治療のスタンダードというのはなかなかありませんが、「皮膚病診療24巻5号(2002年)」「皮膚科診療プラクティス10.治療にてこずる皮膚疾患(2000年)」、Andrews の皮膚科書などは、治療の実際について参考になるでしょう。 |
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| できるだけ毎日入浴、衣類やシーツも交換し、外用しますが、治療期間が数週から数か月かかることが多いです。角化部や痂皮の厚くついた部分は、ていねいに入浴時に洗ったり、外用も角質軟化作用を持つ尿素軟膏を併用したりする工夫が必要です。 |
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| 普通の疥癬では寄生のみられない頭部顔面にも寄生がみられるので、こちらにも外用する必要があります。爪の部分への寄生もあり、たいへん難治です。 |
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| 衣類やシーツにも無数の疥癬虫や卵が落ちていますから、交換はホコリをまきあげないようそっとして、大型のビニール袋につめて移動させる必要があるでしょう。 |
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| 〈トピックス〉 |
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| 本邦では入手困難ですが(個人的に入手してチャレンジされている先生方はいらっしゃいます)、Andrews の皮膚科書などに記載されている治療法としては以下のようなものがあります。
Permethrin cream:外用の殺虫剤。オンコセルカ症の内服治療に用いられてきたIvermectin 内服が、ノルウェー疥癬にも有効と報告されてきています。 |
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| 〈介護と疥癬〉 |
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| 介護者に疥癬がうつる場合、手首〜前腕の内側が好発部です。清拭や入浴介護などは、湯温を確認するため素手で行うことが多いですし、当然、半袖や腕まくりの状態で患者さん等を抱き支えたりすることが多いからです。処置後に介護者が手洗いする場合にも、手の部分はよく洗っていますが、手首や前腕は死角になっているのかもしれません。 |
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| 外来で、手首〜前腕の内側にかゆみを伴う皮疹を見た場合には、疥癬トンネルの有無を注意深く観察したり、検鏡したり、患者さんが何らかの形で介護にかかわっていないか聞くようにしています。 |
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| 介護者は処置後の手洗いやディスポ手袋の使用も大切ですが、手首〜前腕の内側に皮疹がでてきた場合には、疥癬を疑って、皮膚科受診したり、オイラックス軟膏を両肘から先に1週間程予防的に外用しておくのも一法です。安息香酸ベンジル等なら、5〜7日あけて計2回程使用すればよいでしょう。 |
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| 普通の疥癬患者の入浴では、浴室や浴槽から感染することは極めて少ないと思います。しかし、ノルウェー疥癬患者が使用した場合には、浴室、浴槽、ストレッチャーに無数の疥癬虫や卵が残っていると考えられます。ノルウェー疥癬と気づいてない期間があった場合には、器具を共用したすべての方の疥癬治療を一度行っておいたほうがよいでしょう。 |
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| いずれにせよ、施設で疥癬患者を見逃すと、介護者自身が感染して疥癬を媒介したり、入浴施設などの共用から、数十人単位の集団発生を招きます。施設の責任者の方々自身が疥癬について勉強し、スタッフの教育や衛生管理を十分にしていくことが肝要です。 |
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| 残念ながら、本邦では有効な疥癬治療法にお墨つきがありませんので、それぞれの施設の責任で使用しなくてはなりません。また、治療に際しての患者さんや家族への説明や、治療にかかるコストをどうするか等についても留意しておく必要があるでしょう。 |
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| 沼原 利彦 |
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(ぬまはら・としひこ) |
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| 1986年 |
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香川医科大学卒業(第一期生) |
| 1986年 |
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同大学附属病院皮膚科研修医 |
| 1987年 |
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同大学医学部内科学講座皮膚科学助手 |
| 2000年 |
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同大学附属病院皮膚科講師・副科長、現在に至る |
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