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| 20年前、私が岡山大学へ異動して間もなく、薬物の口腔粘膜吸収を手がけることになった。それまでは薬物溶液を口に含んで一定時間後に残存する薬物量との差を吸収量とする方法以外に詳細な情報が見られず、未知の点が多かったので、小動物ハムスターで検討することとした。 |
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| ヒトの口腔は機能も構造も異なる多種多様な粘膜からなり複雑なので、その角質化粘膜の薬物透過機構を解明することとし、ハムスター頬袋を用いた研究を行った。その結果、角質化粘膜の薬物透過機構の詳細を明らかにするとともに、その透過促進法に関してもかなりの基礎的情報を得ることができた。 |
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| 経皮吸収に関しては、当時、全身作用を期待した投与のために吸収促進剤の検討が世界的に盛んに行われていた。皮膚のバリアー機能は角質層に由来しており、角質層の透過性を促進することが重要であるが、皮膚から得た角質層には毛孔があり、正確な透過の評価が困難であった。 |
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| ところが、ハムスター頬袋から得た角質層にはそのような孔がないため、純粋に角質層の透過性の評価、促進剤の作用機構の解析に有効に利用できた。その後、多くの研究者により、角質層のバリアー機能は細胞間隙にラメラ層として存在する非極性脂質に起因することが明らかにされ、その流動性の修飾による透過促進など、研究は詳細に展開された。 |
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| また、長時間貼付可能部位であることを利用した持続放出法の工夫もなされた結果、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、エストラジオールをはじめ、最近ではフェンタニルなど、種々の薬物が全身作用を期待した貼付剤として臨床に供されている。吸収促進法に関しては、その後イオントフォレシスをはじめとして、物理的方法が導入され、そのための器具の小型化も急速に進んだ。 |
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| 一方、我国では NSAID の貼付剤の開発が行われ、局所効果の評価が注目されていた。その後も NSAID の貼付剤開発は急速に進み、今や一般に普及したのみならず、世界への導出が進んでいるのは喜ばしい。また、局所効果を期待したアトピー性皮膚炎治療剤タクロリムス軟膏剤や帯状疱疹後神経疼痛リドカイン貼付剤などが臨床に供されるようになっている。 |
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| このように、局所作用を期待する場合には局所に止まり、全身への移行は最小限であることが望ましい。しかし、薬物適用部位下での薬物動態には未知の点が多く、適用部位局所での薬物動態を支配する因子の解析が近年注目される重要な研究課題となっている。 |
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| 口腔粘膜に話を戻す。その後、ヒトの口腔内各部位に適用可能な還流セルを開発して薬物吸収動態の部位差を検討した結果、粘膜への取り込みにはほとんど差が見られないが、血流への移行速度、言いかえれば粘膜への滞留性が上皮の厚さに依存して部位によって大きく異なることを明らかにした。舌下錠とバッカル錠が目的に応じて使い分けられているのは極めて合理的であり、貼付剤の開発に当たっても目的に応じて適用部位を考慮する必要があることを示唆している。 |
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| 一方、分子生物学の飛躍的な進歩によりトランスポーターが次々とクローニングされている。我々は口腔粘膜上皮細胞にも D-グルコースのトランスポーター(SGLT1, GLUT1~3)が発現していることを明らかにするとともに、重層に培養した細胞層の透過試験により、それらトランスポーターは細胞自身の栄養補給のために取り込むばかりでなく、上皮細胞層の透過、すなわち吸収のためにも機能することを明らかにした。他のトランスポーターの発現も認められることから、今後はトランスポーターを介した口腔粘膜の薬物吸収を期待している。 |
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| 最近の口腔粘膜適用 DDS として、米国で開発されたインスリンスプレーに注目している。詳細な情報は得られていないが、ユニークな吸収促進剤の組み合わせを用いており、食事直前に口腔内へスプレーすることにより、注射に匹敵する効果があるということである。
このように、基礎研究の進歩とともに、経皮・経粘膜適用製剤の開発も進んでいる。患者の QOL 改善のため、経皮・経粘膜デリバリーの一層の活用に少しでも寄与できるよう、我々も細々ながら研究を続けている。 |
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| 木村 聰城郎 |
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(きむら・としきろう) |
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| 1966年 |
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京都大学薬学部卒業
同大学院を終えて、京都大学助手、助教授 |
| 1975~76年 |
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米国カンザス大学博士研究員(タケル・ヒグチ教授) |
| 1983年 |
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岡山大学薬学部教授(医療薬品科学、薬剤学担当)現在に至る |
| 1994年 |
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タケル・アヤ・ヒグチ記念賞受賞 |
| 2000~01年 |
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日本薬剤学会会長 |
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