皮膚科とEBM:カルシポトリオールを例にとって
    市立吹田市民病院皮膚科部長/幸野 健

I. EBMとは?
EBM(evidence-based medicine, 根拠に基づく医療)という行動指針が臨床実地の世界標準となっている。その目的は「医療の質の向上」である。
EBM でいう「根拠=エビデンス」とは、「適正な臨床試験の結果」のことで、試験方法によりレベルが格付けされる(後述)。
EBM では、エビデンスだけでなく、医師の技能、保健資源、患者の価値観・好みといった要素を勘案して治療法を選択することが推奨される。高質のエビデンス(後述)がある治療法から順に患者に提示すべきなのは当然だが、患者が好まないなら、その治療法は使用できず、次善のエビデンスから提示し直さなければならない。また、エビデンスが不足している局面においては医師の技能を生かさなければならない。
治療法の評価では、一般診療現場での有効性である「(真の)効果」を臨床試験での有効性である「効能」に可及的に近づけることを目指す必要がある(コンプライアンスの向上が鍵となる)。さらに、費用対効果で代表される「効率」、患者の満足感の指標である「効用」をも総合的に判断しなければならない。
EBM は「医療を簡単にしてくれる打出の小槌」どころか、かえって診療を悩ましくする面もある。しかし、医療の質は確実に向上するであろう。
II. エビデンスのレベル
最も高質なものは、患者を実薬群と対照群に無作為に割り付ける「ランダム化比較試験(randomized controlled trial; RCT)である(レベル1)。次に、無作為割り付けされていないが対照群のある比較試験(レベル2。質がやや劣るRCTも含む)、症例対照研究などの後ろ向き研究(レベル3)、症例集積研究(レベル4)の順に格付けされる。如何に素晴らしい内容でも、動物実験など基礎研究のデータや権威者の意見はレベル5 とされる。
III. EBMから観たカルシポトリオールのエビデンス
現在の皮膚科治療を概観すると、十分なエビデンスで裏付けされていないものが多く、今後、EBM 的な再建が必要である。
一方、乾癬の外用治療を例にとると、カルシポトリオールでは30件以上の RCT が報告されており、全てレベル1-2という高質なものである。他の活性型ビタミンD3製剤でこれだけのエビデンスを持っているものは存在しない。
皮膚科学全体において、カルシポトリオールに匹敵するほどのエビデンスを持ちえている薬剤は、アトピー性皮膚炎に対するステロイドやタクロリムス外用薬、乾癬に対するシクロスポリンなどが辛うじて挙げられるだけである。アトピー性皮膚炎に保湿薬が繁用されるが、保湿薬にはレベル1-2という高質のエビデンスはほとんど存在しないのである。
窪田教授(香川医大)が本コーナーに記載しておられる、「カルシポトリオールとステロイド外用薬の併用・連続療法」や「カルシポトリオールと光線療法併用」といったカルシポトリオールに関する種々の医療情報は、EBM の観点から言うと、全てレベル1-2のエビデンス(RCT)で裏打ちされており、臨床家は自信と安心感を持って患者に推奨できるであろう(推奨度グレードA)。このようにエビデンスが豊富にある薬剤は、実は極めて稀であるということを認識したい。
参考文献:Ashcroft DM et al. BMJ, 320:963, 2000
幸野 健 (こうの・たけし)
1980年 大阪市立大学医学部卒業
1984年   同・大学院修了、同・皮膚科助手
1988年   同・講師
1992~94年   カナダ・トロント大学医学部リサーチ・フェロー(皮膚科・免疫学教室)
2001年   市立吹田市民病院皮膚科部長 現在に至る
専門分野
アトピー性皮膚炎・蕁麻疹などアレルギー性皮膚疾患、乾癬、膠原病、
創傷治癒、医療技術評価学、臨床疫学、医用統計学
活動
日本研究皮膚科学会・評議員
アトピー性皮膚炎治療研究会・世話人
コクラン共同計画コクラン・スキングループ会員・外部審査員
(財)日本医療機能評価機構・医学情報サービス事業(MINDS)編集委員
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