スーパーマン
    愛媛大学医学部附属病院 皮膚科/平川 聡史

初めて見た映画を思い出す。間違いなく、それはスーパーマンだった。ある日の午後、母におねだりし、映画館へ連れて行ってもらった。昼間なのに真っ暗で、外国人ばかりの物語と映像を目の当たりにした体験は、興奮した記憶と共に、ややもすると怖かった。あれから30年、新しいスーパーマンを映画で見た。一昨年のことである。家内が第2子出産のために里帰りし、一人ぶらりと土曜の夜の映画館を訪れた。単純明快なアメリカ映画が好きである。勧善懲悪、美男美女の淡い恋、再びスーパーマンを楽しんだ。幼少の時、スーパーマンで感じた異質な世界に比べると、今度は全てが身体に馴染んだ。アメリカの街並み、スーパーマンの心象、一つ一つの映像が、時に自分の経験と重なり、立体的な形として甦る。その中で一番印象的だったのは、スーパーマンに子供が生まれたことである。超人無敵、不老不死のイメージを持つスーパーマンが子供を生み、世代交代することは、そもそも生物学的に意外である。しかし、何より実感したのは、30年を共に生きてきたスーパーマンが、僕と時を同じくして世代交代したのだ。お互い「おやじ」になったものだと、妙に親近感を抱いた。
あれから2年経つ。子供は健やかに成長し、かわいらしい。親として、この子供達に何を与え、何を残すことが出来るのか、ふと考えることがある。しかし、親と子の関係は一方向ではないこともまた、常々感じるものである。子供の生活で、発熱は日常だ。「また熱か。」あまり驚くこともなくなった頃、子供が「口が痛い」と言い出した。いや、痛みで話すことが出来ず、きっと口が痛いのだろうと理解した。よくよく見ると、口唇に潰瘍が出来ている。きっとヘルペスだろう。そうこうしても、子供は相変わらず食べず、しゃべらず、呻って泣くばかりである。どうしようもない。せめて出来ることは、アイスクリームを溶かして、子供の口元に運ぶことである。「あなたは本当に医者なの?」怪訝そうに妻が僕の顔を覗き込むと、今度は子供の下腿に発疹が出始めた。いよいよ困り、かくなる上は潔く降参し、翌日小児科を訪ねた。そして、これが手足口病であることを、心の痛みと共に教えられた。自分の子供には申し訳ないことをしたと思うが、次に人の子を見た時には、きっと診断出来る経験を得たのだろう。子供から、日々たくさんのことを学んでいる。
子供が就学すると、自身が大学で教える学生にも、きちんとした教育や知識、経験を与えなければならないと感じる。わずかな接点で皮膚科の仕事や面白さを伝えるのは、思いのほか難しい。いや、ことさら皮膚科ではなくとも良い。考えるというプロセスが、恐らくは知識よりも大事であり、様々な場面での応用力であることを、学生に伝えるのが大変である。しかし、最初はただのブツブツだったものが、共に患者さんを見て、一緒に考えるうちに、次第に意味を持った「発疹」に変わる瞬間を、学生とともに経験出来ることがある。その時の学生の表情は明らかに生き生きとしているし、その表情を見ることが、僕自身嬉しい。わずかな時間を共に過ごした学生が、どこでどのような医師になるのか、皆目知り得ない。しかし、これから30年、また次にどこかで会った時、お互い成長していることを願おう。
平川 聡史 (ひらかわ・さとし)
1996年 岡山大学医学部卒業。同皮膚科学教室入局
1997年   同分子医化学教室にて博士課程
2001年   学位授与 指導教官:二宮善文教授
2001年  
渡米 Cutaneous Biology Research Center, Massachusetts
General Hospital and Harvard Medical Schoolにて博士研究員
2005年   愛媛大学医学部附属病院 医員
2006年   愛媛大学医学部附属病院 助手
2007年   愛媛大学医学部附属病院 特任講師
専門
血管・リンパ管生物学
主な学会活動
日本血管生物医学会(評議員)
日本結合組織学会(評議員)
日本リンパ学会(評議員)
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