ウイルスと病気
    山梨大学医学部皮膚科/川村 龍吉

ひょんな事からHIVの研究を始めて、気がついたら今年で10年になる。研究すればするほどこのウイルスの生体内侵入における狡猾さと、発病に至るメカニズムの複雑さに驚かされる。HIVはAIDSの原因ではないと一歩も引かない某国大統領がいたが、AIDSの原因ウイルスはHIVである。他のウイルスも様々な病気を引き起こすが、逆に思わぬ病気の原因がウイルスだったりする。
先日Science誌にメルケル細胞癌と新種のポリオーマウイルスとの関連が報告された。この真偽については今後の研究を待つしかないが、きっと他にもいろんな病気が意外なウイルスによって引き起こされているに違いない。しかし、既に原因ウイルスが解明されている病気であっても、発病に至る機序については未だ不明なものも多い。カポジ肉腫の原因ウイルスが8型ヘルペスウイルス(HHV-8)なのは有名で、教科書にも載っている。しかし、以前免疫不全マウスにヒトの皮膚を移植して、その皮内に毎日HHV-8を注射したが、何ヶ月待ってもカポジ肉腫はできなかった。感染ヒトB細胞や種々のサイトカインを一緒に注射してもダメだった。何が足りなかったのかは未だわからないが、ウイルス感染から発病へ至る過程はそれほど単純なものではないらしい。
たとえ“ある病変部あるいは患者”に“あるウイルス”がたくさん存在しても、そのウイルスがその病気の発症原因であるかどうかは別問題であり、その証明は難しい。留学中に、渡辺孝宏先生(東大皮膚科)がされていたジベルバラ色粃糠疹(PR)という病気の原因ウイルスを調べる研究を手伝ったことがある。既に他の研究グループから報告されていたとおり、本当にHHV-7が患者血清中に認められた。加えて、HHV-7とHHV-6が患者血清中および皮疹部に見つかった。なるほどこの皮膚病はこれらのウイルスの“再活性化”によりおこるのかと納得して帰国してみると、同じウイルス(HHV-4〜-7、特にHHV- 6)がある種の薬によって再活性化される病態;薬剤性過敏症症候群(DIHS)が日本で新たに提唱されて話題になっていた。
なぜかはわからないが 、日本では“HHV-6, -7とDIHSとの関連は認めるがPRに関しては疑わしい”という先生が多い。PRでは他に“本物”の原因ウイルスがいて、発病後にHHV-6, -7が非特異的に再活性化されているだけだと言って無視を決め込む先生もいる。PR に関するいくつかの研究において、“他の炎症性疾患ではHHV-6, -7は増殖してない”ことも示されているが、確かにこの手法ではいくらdisease controlを増やしても確証には至らないのかもしれない。しかし、本当にHHV-6, -7の再活性化が皮膚病を引き起こすのかと言う点においては、私には現時点でDIHSとPRとでそのエビデンスレベルに差がないように思える。結局、 HHV-6, -7の増殖を特異的に抑制する薬が発明されるまでは、この“ニワトリと卵”のような論議は続くのだろう。しかし、せめてその特効薬ができるまでは、HHV -6, -7のPR原因ウイルスとしての可能性を温かく見守っていただければと思うのだが。
川村 龍吉 (かわむら・たつよし)
1990年 山梨医科大学医学部卒業 同皮膚科学教室入局
1992年   静岡県共立蒲原総合病院皮膚科
1993年   山梨医科大学医学部皮膚科医員
1994年   山梨医科大学医学部皮膚科助手
1998~2002年   NIH(米国国立衛生研究所)皮膚科に留学
2002年   山梨大学医学部皮膚科講師 現在に至る
専門
皮膚免疫
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