めざせ皮膚科学コミュニケーター
    産業医科大学 皮膚科/小林 美和

昨今の教育改革にもの申す訳ではないが、理科離れが嘆かれているだけあって、最近の学生と話をしていると、科学に対する知識、興味の乏しさが気になって仕方がない。なにも難しい病気の話をしている訳ではない。そんなこと、ちょっと物知りの小学生でも知っているぞ、というようなことを知らなかったりするので驚かされる。例えば、臨床実習中の学生への真菌症講義で。血清βグルカン値測定の意義を説明するため、前ふりとして
「あなたの細胞に、細胞壁はありますか?」
と聞くと、半数近くが「ある」または、「分からない」と答える。
「真菌とはなに?」
と聞くと、「細菌の仲間?原虫?」。そこから説明せねばならないのか、と脱線ばかりしているので時間通りに終わらない。
さて、私のささやかな趣味の1つに、子供向けの科学雑誌やテレビ番組に目を通すことがある。宇宙の起源やら、恐竜の化石やら、そういった類いのものであるから、仕事にも日常生活にもほぼ役に立たないが、子供向けに非常に易しく解説された文章を読み、理解した気になる。そして、学生さんにも分かりやすく話してあげないといけないんだなぁ、と反省する。
そんな中、ポッドキャスト配信の面白い科学番組を見つけ、すっかりはまってしまった。一般向けに科学情報を発信する専門家を「科学コミュニケーター」と呼ぶそうなのだが、その科学コミュニケーターが最新の科学情報を分かりやすく解説する番組である。話のネタは、一流海外雑誌の最新の論文なので、まずはそれを読んで理解する能力がないとできない仕事だが、何よりすごいのは内容の噛み砕き方である。まず、「論文の背景」や「これまでどのように理解されていたのか」というところから話が始まり、専門用語については全て解説が入る。理解しにくいところは、必ず身近なたとえ話が出て来て、最後にその論文の内容から今後どのような話に発展するのかを予想し、聞いている者を分かった気にさせてくれる。分かった気になれる、というのは知的好奇心が満たされ、何とも爽快である。
そうか、難しい言葉を使わずに話をすれば学生は聞いてくれるのか。もっと工夫して、楽しく皮膚科の講義を聴いてもらおう、とやる気になってきた。さて、この番組、30分弱だが、実に2/3以上が背景知識と言葉の解説に当てられている。同じ調子で白癬について話をしてみると、こうなった。植物と動物の細胞の違いを説明する小学校の理科からスタートして、生物の分類学をへて、微生物学の復習をする。さらに進化の話をかじって、組織学での皮膚の構造を思い出してもらい、ようやく角層の白癬菌を示したPAS染色の組織写真にたどり着くのである。学生は良く分かったと喜ぶから、こちらもまぁ嬉しい。よかった、よかった。
いやまて、前座の話は君たちが既に習って来たことなんだから、基礎知識として覚えていて欲しいんだけど。
小林 美和  
1996年 香川医科大学卒業 産業医科大学皮膚科入局
1998年   北九州市立八幡病院皮膚科
1998年   産業医科大学皮膚科専修医
2001年   同助手
2005年   同講師
日本皮膚科学会認定専門医
日本医真菌学会認定専門医
日本皮膚科学会認定美容皮膚・レーザー指導専門医
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