高IgE症候群との出会い
    水戸済生会総合病院皮膚科/飯島 茂子

500床クラスの総合病院に勤務していて、臨床経験も20年を超えてくると、今までに診たことも聞いたこともない疾患にはなかなか出くわさないが、年に1例くらいそのような珍しい疾患に出会う。高IgE症候群もその例である。
症例は、水戸済生会総合病院に隣接している茨城県立こども病院に入院中の3か月男児。紹介状によれば、生後3週間から脂漏性湿疹を認め、初診4日前から顔面・前胸部にかけて小水疱や小膿疱が多数出現したという。近医よりカポジ水痘様発疹症を疑われてこども病院紹介となり、当科初診時にはすでに抗生剤とアシクロビルの点滴を施行中であった。皮疹は頭部・顔面全体の著明な瀰漫性黄色痂皮と耳の膿性浸出液が主体で、頚部には稗粒腫様黄色小丘疹が多数集簇していた。検査上ではWBC74600/mm3(Eo58%)、CRP5.06 mg/dlで、炎症反応を伴う著明な好酸球増多を認めた。発疹学的には脂漏性湿疹に二次感染を併発したもののようであったが、程度は極めて強く、検査値も異様であった。とりあえずフシジン酸ナトリウム軟膏での重層処置を指示したところ、翌日には若干軽快した。まもなく、非特異的IgE が2120IU/mlで乳児期の基準値6.45IU/mlより遥かに高値であること、黄色ブドウ球菌エンテロトキシンの特異的IgEがクラス3であることが判明した。
この時点でこども病院の小児科医達は、皮疹を伴う免疫不全症の1つである高IgE症候群を疑った。この疾患は皮膚科の中ではほとんど知られておらず、代表的なわが国の皮膚科教本2冊にも載っていない。Fitzpatrickの教本で調べてみると、hyperimmunoglobulin E-recurrent infection syndromeとして小さく記載されていた。本疾患は、細菌および真菌に対する易感染性が出生直後からあり、出生後数日の時点ですでに全身を膿痂疹様皮疹で覆われ、二次感染を伴ったアトピー性皮膚炎様である。しばしば後頭部膿瘍を形成するために外科的処置およびドレナージを必要とする。特記すべきことは、皮下膿瘍を形成しても局所の炎症所見に乏しいことであり、「冷膿瘍」と呼ばれる腫瘤を形成する。近年、本症候群がIL-6とIL-10との共通のシグナル伝達分子であるSTAT (signal transducer and activator of transcriprion) 3の遺伝子異常であることが確認され(Minegishi Y, et al: Nature 448:1058-1062,2007)、新生児早期から重症のアトピー様発疹と高IgE血症を呈する症例に対して、早期の確定診断が可能となった。
自験例は経過中、稗粒腫様小丘疹の他、毛包一致性の面皰様丘疹、小膿疱、粉瘤様の皮下結節、冷膿瘍、ヘルペス様の痂皮性丘疹などと多彩な皮疹を呈し、これらは抗生剤により、アトピー性皮膚炎様の充実性丘疹となった。数回に亘る皮膚の培養からは毎回MRSAが検出された。遺伝子検索にて、STAT3分子のDNA結合領域に1アミノ酸置換を認め、生後7カ月という早期に診断が確定した。重症なアトピー様発疹の症例でありながら、最終診断は皮膚科医ではなく、小児科医でなされた。貴重な経験であった。しかし、STAT3の異常が高IgE血症や好酸球増多を引き起こす機序はまだ解明されてはいない。病態形成機構の解明が待たれると同時に、近い将来、わが国の皮膚科の教本にも本症候群がアトピー様皮疹を呈する免疫不全症として記載されることを期待する。
飯島 茂子  
1983年3月 筑波大学医学専門学群卒業
1983年4月   筑波大学附属病院 内科研修医
1985年4月   筑波大学附属病院 皮膚科医員
1986年4月   日立製作所 日立総合病院 皮膚科医師
1986年10月   筑波大学附属病院 皮膚科医員
1988年11月   水戸赤十字病院 皮膚科部長
1993年2月   筑波大学臨床医学系講師
1996年12月   水戸済生会総合病院 皮膚科部長
2009年5月   同 副院長
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所属学会
スペース 日本皮膚科学会、日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会 日本アレルギー学会日本皮膚悪性腫瘍学会 日本血流血管学会理事
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研究歴
スペース 皮膚悪性リンパ腫の研究にて学位取得後、血液レオロジー学的手法を用いて、ベーチェット病、血液透析患者を主とした研究を行った。臨床面では、ポビドン・ヨードによる刺激性接触皮膚炎、タクロリムス軟膏による扁平苔癬の治療、皮膚細菌感染症の統計など多数。
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専門
スペース 皮膚アレルギー、悪性腫瘍、円形脱毛症
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