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| 現代医学の発展と共にさまざまな病気が克服され、日本人の平均寿命も古来稀なる70歳はおろか80歳を超えるまでになりました。しかし人間は生きている限り、人生の終末やその原因となる病気と無縁ではいられません。現代医学を以ってしても手強い癌が、近年の主要な死亡原因となって、癌を中心とした終末期医療のあり方が検討されるようになりました。そして、キュアからケアへのギアチェンジ、あるいは緩和医療といった考え方も出現し、実践されております。 |
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| このような状況の中で、本年の6月に開催された第9回日本緩和医療学会総会は多数の参加者を集めて札幌で開催され、プログラム中に『緩和医療における漢方医学』というパネルディスカッションが組まれました。また翌週の第55回日本東洋医学会総会(横浜)でもワークショップ『緩和医療と東洋医学』が開催されました。緩和医療における漢方(鍼灸を含めて)の有用性が、大いに注目され始めたようです。いわゆる現代医学で治療に行き詰まったとき、他の例えば伝統医学や民間療法などへも治療の選択肢を広げることは自然の成り行きでしょう。漢方もそのひとつとも考えられますが、漢方医学の持つ特長があってこそだと思います。 |
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| 万物の霊長とはいっても人間も所詮は動物であり、生まれることはおよそ100年以内には死ぬ“がん”に罹ったようなものです。であるならば、医療の究極の目的は命を「救う」のではなく「全うさせる」ことにあるように感じています。すなわち本来、医療はすべて緩和医療だと思うのです。 |
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| 漢方に緩和医療という用語はもちろんありません。そのため、治療の指針として『証』を重視しています。証とは漢方医学的な病態、即ち恒常性を脅かす病因に対して生体が反応して生じる状況の漢方医学的診断といえます。主に五感を用いて捕らえた症候から判断した証により、寒(冷え)は暖め熱は冷まし、虚は補い実は瀉すというように、生体の崩れたバランスを補正する方向に治療方針が決まります。生体の復元力に対する援助をするわけです。日本漢方では、最終的な病人の証にはそれぞれ対応した治療方剤があると考え、『方証相対』とも言われます。 |
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| ともあれ、治療の目標はバランスの補正ですから、新たなバランスのゆがみ(副作用)を来たす治療は原則として誤治であり、証の判定ミス=誤診とされます。即ち、常に症候の緩和を求める医療体系です。しかし単にその場の症候を覆い隠す対症療法とは異なり、現代医学的な疾患の治療にも漢方が役立つことは、現在、多くのエビデンスの集積により証明されつつあります。漢方治療は、その目的を治癒か緩和医療かに分けることなく、常に証に応じて治療する点が大きな特徴といえます。 |
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| 再発性の甲状腺癌、67歳の女性例を経験しました。化学療法と放射線療法の効果もなく、家族の希望により我々に紹介されたときには、右の頸部に急速に増大した手拳大の腫瘤により気道の圧迫を来たし、気管切開されていました。右前頸部の腫瘤は強い自発痛と圧痛を伴い、後頸部へかけての強ばりが顕著でした。しかし脈や腹壁の緊張は中等度あり、実証で頸部の強ばりに適応となる葛根湯を基本に、手足の冷え(寒)と疼痛を考慮して附子(熱薬で鎮痛作用がある)などを加え、葛根加苓朮附湯(生薬)を中心に漢方治療を行いました。 |
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| 服用開始の夜から疼痛が軽減し始め、腫瘤の増大傾向が止まり、2週間後頃には腫瘤が縮小傾向となりました。その後、気管切開を閉じ、2ヵ月後には独歩退院となりました。漢方治療開始前に行った放射線治療などの遅発効果である可能性もあります。また、残念ながら再燃し、退院後約半年で亡くなりました。しかし緩和医療の目的で紹介された症例が、一時的にせよ原疾患の好転を得たことに、正直のところ我々も驚きました。 |
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| キュアからケアへのギアチェンジなしに一貫して治療が行える点も、終末期医療における漢方の大きな特長だと考えます。 |
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