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禁断の恋 −利尿・代謝・失禁の語源−
    東邦大学医療センター大森病院東洋医学科/三浦 於菟

まだ私が西洋の内科医であった頃の話である。浮腫の患者さんに利尿剤を出しましょうといった所、“え。尿からつくった薬ですか?”とびっくりされた事がある。この方は、尿を利用した薬と勘違いしてしまったのだ。かように、何故この漢字が使用されるのか理解に苦しむ医学用語がある。利尿の外、代謝、失禁、感冒、月経、所見、処方、頓服、服用、健忘などきりがない。以下この内いつくかのゆわれを述べてみよう。
まずは利尿から。利の禾は稲穂、リは鋭い刃物の意味。鋭利の利である。利とは稲穂を刀でスパと切る事が原義であり、それよりすらっと通る、更に物事に通じる(利口)、物事が都合よく運ぶ(利己)、良好になるなどの意味となっていった。そしてうまく事が運び役立つ事から、利用の字となったのである。つまり利尿とは、尿が良好にスーと出る事を表すのであり、決して利用する意味ではない。
次は代謝。我々の感覚からすれば、感謝の代わりと読み取れてしまい、まったく理解に苦しむ。謝とは、射から理解できるように、本来は張った弓の矢をいる意味であった。矢をいれば当然、弓はたるみゆるむ。ここより心の緊張がとける意味となった。相手からの好意に心が緊張していた時に、お礼をいえばその緊張もほぐれる。ここから感謝や謝辞の意味が生じたのである。面会謝絶とは、申し訳ないが面会を断る意味である。
中国語では花がしぼみ、しおれる事を“花謝了”と言う。これは、ここまで育ててくれて有り難うという事ではない。花の生命力がしぼむ、つまり衰えた状態の表現となる。ゆるむから派生し衰える意味となったのである。これが、代謝の謝である。代とは入れかわるの意味であり、代謝とは衰えたものを変えていくという所から名付けられた用語である。よく新陳代謝といわれるが、陳とは古い事で、古くなり衰えたものを新しいものに変えるという意味となる。組織の新陳代謝をはかるなどと使用される。私も変わられないように、心してかからずばなるまい。
最後は失禁。禁じられたものが失われる。して良いという事か? 不思議な言葉である。 示は、祭壇で神聖な場所の意味。林は、聖域周囲に植えられた木々の事。つまり禁とは、聖域の回りに林をめぐらせ出入り不可能な状態にする意味である。宮中を禁裏、中国皇帝の住まいの紫禁城もここからきている。さらに派生し、閉じこめておく・ふさぐ、更にいましめなどの意味となった。つまり失禁とは、閉じこめ保持する事が不可能となり漏れてしまう所からの命名となる。
さて禁断という言葉。気持を閉じこめ断つともとれる。禁断の恋とは、お互いの心を他人に知られないように秘めて、進行させていく恋なのかも知れない。
三浦 於菟 (みうら・おと)
1947年 山梨県生まれ
1973年   東邦大学医学部卒業 東邦大学第二内科入局
1984年~87年   日本政府派遣中国政府奨学金留学生として中華人民共和国南京中医学院留学
1987年~88年   中華民国中国医薬学院留学
1991年   日本医科大学東洋医学科勤務
2001年   日本医科大学東洋医学科助教授
2005年2月~   東邦大学医学部附属大森病院東洋医学科教授
日本医科大学非常勤講師
日本東洋医学会評議員 日本未病システム学会評議員
日本東洋医学会専門医、日本東洋医学会指導医、日本東洋医学会編集委員、
日本東洋医学会専門制度委員会関東甲信越支部委員長
主な著書
東洋医学を知っていますか−新潮選書−(新潮社)
大地−中国医学の実態と問題点−(緑書房)
漢方上手(源草社)
四季の漢方(源草社)
実践漢薬学(医歯薬出版)
未病息災〔共著〕(源草社)
いのちと心の漢方学—新潮選書—(新潮社)
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