漢方薬と西洋薬の相互作用を考える
    北海道医療大学薬学部教授/齊藤 浩司

近年,切れ味の鋭い西洋薬が次々に開発され,様々な疾患の治療に多大な貢献をなしています。しかしながら,それらの西洋薬は時に重大な副作用や相互作用を引き起こすことがあり,その有害性を抑えながら有効性を最大限に確保することが今日の薬物療法の命題となっています。
漢方薬は西洋薬に比べて作用が緩徐でかつ副作用も少ないという認識から,昨今の健康ブームに乗って患者が健康食品やサプリメントと同様に一般用医薬品として販売される漢方薬を気軽に服用することが増えています。また,漢方薬を処方した経験のある医師の割合が1976年は2割ほどであったものが2003年には9割に達したという調査結果があり[1],臨床における漢方薬の活用も大幅に拡大していることが伺えます。
漢方薬の特徴として,1)有効成分を多数含む配合剤であること,2)服用後に腸内細菌叢による分解を受けてから吸収され効果を発揮する成分が少なくないこと,3)未吸収のまま糞便中に排泄される成分があること,4)治療効果の個人差が大きいこと,などが挙げられます。明治以来,西洋医学が中心的位置を占める日本では,漢方薬が単独で用いられるよりはむしろ西洋薬と併用されることが今後も多くなると予測されます[2]。これまでに,小柴胡湯とインターフェロン製剤の併用による間質性肺炎,カンゾウ含有漢方薬とグリチルリチン製剤の併用による偽アルドステロン症などが,漢方薬と西洋薬の重大な薬理学的相互作用として知られてきました。一方,漢方薬の活性成分の体内動態に関する知見が乏しいために,西洋薬との動態学的相互作用に関する情報の整備は進んでいないのが現状です。
そんな中で最近,医薬品の体内動態を制御する代謝酵素や輸送担体に対する漢方薬の影響を検討した論文や学会発表が少しずつ増えてきました。例として,最も多くの医薬品の代謝を司るシトクロムP450(CYP)分子種であるCYP3A4を大柴胡湯や小青龍湯,呉茱萸エキスなどが強く阻害すること,小柴胡湯がトルブタミドやジゴキシンの吸収を増大させることなどが報告されています。
小柴胡湯とジゴキシンの相互作用は,カンゾウ成分のグリチルリチン酸やリクイチンがジゴキシンの吸収を抑制するP-糖タンパク(P-gp)という輸送担体を阻害するために起こると見なされています[3]。これらの知見の多くは細胞レベルや動物レベルで評価されており,ヒトへの応用については今後の臨床データの収集を待たねばなりません。しかしP-gpは抗がん剤,抗不整脈薬,HMG-CoA還元酵素阻害薬,降圧薬,免疫抑制薬,マクロライド系抗生物質,ステロイドホルモンなど様々な西洋薬の吸収を抑制すること,また漢方薬にはカンゾウ成分を含むものが多いことから,P-gpをめぐるカンゾウ成分と西洋薬の相互作用には留意が必要と思われます。漢方薬の特徴として挙げた上述の2)に関しては腸内細菌叢を攪乱する抗生物質の併用により漢方薬の効果が減弱すること,また3)については漢方薬の非吸収成分と西洋薬の結合により西洋薬の吸収が低下することもありそうです。
本学には全国有数の附属薬草園があり,毎年多くの一般市民の方が見学に訪れています。漢方薬を有効に活用していくために,西洋薬との相互作用に関する情報網の整備が今とても重要になっています。
<文献>
[1] 日経メディカル編集部,漢方薬使用実態調査,NIKKEI MEDICAL, 10 (別冊): 33-38 (2003).
[2]   五十嵐ら,漢方専門外来における漢方薬服用に関する実態調査I—漢方薬と西洋薬の併用—,医療薬学,33(4): 353-358
[3]   西村信弘,漢方薬と西洋薬の消化管吸収過程における相互作用に関する研究,薬学雑誌,125(4): 363-369 (2005).
齊藤 浩司 (さいとう・ひろし)
1953年5月 福島県いわき市生まれ
1979年3月   北海道大学薬学部卒業
1980年4月   北海道大学病院薬剤部薬剤師
1989年9月   薬学博士号取得(北海道大学)
1992年8月   米国デラウェア州DuPont Merck Pharm. Co.へ留学 (Postdoctoral fellow)
1996年4月   北海道医療大学薬学部助教授
1999年1月   北海道医療大学薬学部教授 現在に至る
主な研究テーマ
医薬品の体内移行動態の解明とその制御
学会活動
日本薬学会(代議員),日本医療薬学会(評議員),日本薬剤学会,日本TDM学会,
日本薬物動態学会,American Association of Pharmaceutical Society
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