ストレスとブラキシズム
    医療法人財団麗歯会 加藤歯科医院院長/串田 守

ストレス学説で有名なハンス・セリエ氏は「ストレスは人生のスパイスである」と述べております。eustressにより適度な刺激で交感神経を活性化し抵抗力がつく一方、distressにより過剰なストレス、慢性的に長く続くストレスは心身に悪影響を及ぼします。中医学的には、ストレスは体の基本物質「気」「血」「水」のうち、「気」「血」に影響を及ぼし、原因が同じストレスであっても症状が異なれば、体の中で生じる反応の機序も異なると考えられます。
ところで、リラックスしているときに上の歯と下の歯は触れていますか?それとも触れていませんか?このような質問をすると、しばらく考え込んだ末「触れている」または「咬んでいる」と答えられる方が意外と多くいらっしゃいます。通常、上下の前歯は2〜3mmほど離れており、一日のほとんどは上下の歯は触れていない状態にあります。歯科領域におけるストレス性障害の一つにブラキシズムがあります。ブラキシズムはクレンチング(くいしばり)、グラインディング(歯ぎしり)、タッピング(上下の歯が小刻みにカチカチ咬みあう)に分けられ、無意識に長時間続けば歯のすり減り、破折、知覚過敏、歯周病や、はたまた顎関節症、頭顔面・頸部の痛み、肩の痛みなど様々な疾患につながります。
口腔内の疾患に限局すれば、従来の歯科治療によって対応できますが、顎関節症の治療や、表在部における頭顔面・頸部の痛みのような筋痛の治療は多岐にわたります。患者さんには、食事のとき以外は上下の歯をなるべく触れないように意識してもらいます。咬合に関与する治療法としてはスプリント、咬合調整、咬合再構成などがあります。また、対症療法としてはマイオモニター、レーザー、鍼灸などの理学的療法、薬物療法から選択して行います。これらで改善が得られず顎関節自体に障害が認められる場合は外科的療法が必要となる場合もあります。
以下に最近行い、効果の認められた症例を紹介いたします。
46 歳の女性。右側咬筋停止部の痛みを主訴として来院しました。また、右側の側頭部の痛みもあり、咀嚼筋障害を主とした顎関節症Ⅰ型と診断いたしました。そこで、マイオモニター、スプリント療法に加え、薬物療法として非ステロイド性抗炎症剤、筋弛緩剤を投与しました。結果、症状は軽減しましたが、薬を服用し続けることに抵抗を感じ始めたので処方を変更することにしました。中医学的所見としては、色白で痩せ型。脈は弦・細。舌質淡紅、白苔あり。右顎から側頭部にかけての痛みがあり、特にストレスを感じ、イライラした時とその翌朝に顕著に認められることから、自覚はないものの、ブラキシズムがあると想定されました。スプリント療法は継続。合谷、曲池、頬車、下関、百会、風池へ刺鍼・鍼に通電・補法を実施。ストレス、また虚症であることをふまえ、処方は加味逍遥散にしたところ症状の緩和が認められました。この結果は疼痛自体への対応ではなく、加味逍遥散がトランキライザー的な処方として有効であったものと思われます。一般的な歯科治療においてメンタルへのアプローチ、特にトランキライザーの服用には抵抗感を持たれる方もいるなかで、このような漢方薬は患者さんの理解が得やすく、服用しやすい薬と思っております。
ストレスをまったく感じない生活はできなくとも、上手に付き合いつつ、上手に解消することも大切なことと思います。
串田 守 (くしだ・まもる)
1996年 神奈川歯科大学卒業
    神奈川歯科大学口腔衛生学 研究生
医療法人社団 アルファ デンタル クリニック勤務
2001年   医療法人財団 麗歯会 加藤歯科医院勤務
2006年   医療法人財団 麗歯会 加藤歯科医院院長
2007年   歯学博士取得
2008年   神奈川歯科大学健康科学講座口腔保健学分野非常勤講師 兼務
学会活動等
歯科医師臨床研修指導医
日本歯科東洋医学会
日本口腔衛生学会認定医
日本スポーツ歯科医学会
日本レーザー医学会認定医
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