日常診療に漢方を
    大田病院付属大森東診療所・横浜朱雀漢方医学センター/高岡 直子

かかりつけ医として日々様々な訴えの患者さんに接していますが、患者さんの中にはいくつかの医療機関を転々としている方もいらっしゃいます。検査をして病気がないか、調べましょうと言われて一通り検査をされてもまったく異常がありません。病気ではありません、安心してください、と説明をされて一応安心して帰ってくる・・でもそもそも来院するきっかけとなる主訴はまったく変わっていない。病気でないとわかったのはいいけれど、日常生活で気になる症状は変わらずある。じゃあ、一体この症状はなんなの?違う病院で調べてもらおう・・かくしてドクターショッピングは繰り返されるのでしょう。
私も漢方を知るまでは、一通り検査をして「異常なし!」と太鼓判だけ押して診療を終わらせる、そんな医師の一人でした。「よかったですね、異常がなくて。」と精一杯の励ましだけは与えられるけれど、薬ももらわずに釈然としない思いを抱きつつ診察室を出て行く患者さんの後姿を見ながら、なんにもしてあげられない自分を腹立たしく思う日々が少なからずありました。私が漢方に出会ったのは、プライマリ・ケア医として診療をしながら壁にぶちあたっている、そんな頃でした。
ある時の外来にいらっしゃったのは72歳、女性。主訴は顔面紅潮および火照りでした。数年ほど前から主訴が出現し、次第に増悪。何度か近医を受診されるも「病気ではない」という説明のみされていました。主訴は起床時より存在し、冬季に寒い所から急に暖かい室内へ入るとより増悪する傾向にあります。冷えの自覚はなく、むしろ暑がりで冬季でも室内では素足で過ごすことを好みます。
貧乏で高校に進学することができず、金銭的・時間的余裕ができたら勉強をしたいという希望をずっと持たれていて、念願かなって夜間高校に通い始めたのはいいのですが、若い学生から顔面紅潮を飲酒のせいではないかとからかわれ、通学が苦痛になってきていました。
手掌紅色、口唇は乾燥し、亀裂があります。両下肢にはびっくりするほど強い冷感を認めました。冬季でしたが薄手の夏用の靴下を着用し、サンダルを履いていました。
火照りや暑がりという訴えからは、まったく矛盾した足の冷え。むしろこの冷えが諸悪の根源なのでは?と思わせるに十分な冷たさがありました。その他、紅色の手掌、口唇乾燥と亀裂を目標に温経湯を投与してみました。同時に足を冷やさないように生活指導を行ったところ、外来受診のたびに顔面紅潮は改善してきました。顔面紅潮、火照りは薬を飲み始めて3ヶ月ほどで消失し、廃薬としました。修学旅行、卒業式など、クラス全員で写す写真に写りたくないほど悩んでいたのですが、すっかり良くなって学生生活を謳歌し卒業写真も見せてくださいました。
漢方で患者さんのQOL が上がり、嬉しい報告を聞く。その笑顔を見て、医師も元気をもらってQOLを高める。漢方は双方の笑顔を導き出す、そんな可能性に満ちた医療だと思います。こういう経験を一つでもすると、漢方診療の虜になってしまう。もちろんより多くの患者さんの笑顔を引き出すためにもっと精進が必要なのは言うまでもありませんが、これからも漢方とのよいおつきあいを続けていきたいものです。
高岡 直子 (たかおか・なおこ)
1997年3月 和歌山県立医科大学卒業
1997年5月   城南福祉医療協会 大田病院 研修医
2001年4月   医療法人(社団)健和会病院 内科医
2003年9月   大田病院付属大森中診療所副所長
2005年3月   横浜朱雀漢方医学センター副センター長
2005年7月   東邦大学東洋医学科客員講師
2006年12月   大田病院付属大森東診療所所長
日本プライマリ・ケア学会専門医・指導医
日本内科学会認定医
所属学会
日本東洋医学会
日本家庭医療学会
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