漢方薬とアトピー性皮膚炎と私
    九州大学大学院医学研究院心身医学/平本 哲哉

私が漢方薬の勉強を始めたのは、医学部の4年生のときで、どのような医者になろうかな?と考えていた時期でした。いろいろ悩んでも答えが出なかったので、まずは先入観なく色々な治療法を経験し、効果のあるものを探していこうと考えました。ちょうど?私は生後6か月頃よりアトピー性皮膚炎を患っていたので、自分の身体を通して西洋医学、東洋医学、その他の医学を体験してみよう!このように考えたことがきっかけでした。
すでに何度か皮膚科を受診し西洋医学の治療は経験していたため、次は東洋医学の治療を体験しようと、漢方で有名な先生の診療を受けました。その時処方されたのが、竜胆瀉肝湯加荊芥連翹湯でした。煎じ器を購入してことこと煮込み、家中漢方薬のにおいを漂わせながら内服しました。すると、一週間もたたないうちに、症状のある所すべてから浸出液が吹き出してきたではありませんか!これには大変びっくりしました。すぐに先生の所に行き、これで大丈夫ですか?と聞いたところ、「心配ない」いう返事でした。全身、浸出液だらけになりながら3か月内服しましたが、残念ながらそれ以上の変化はなく、あまりにも身体がきつかったので内服を自己中断しました(先生は毒を出し続けたら治るといわれていましたが)。しかし、漢方薬がこれほど身体を変化させるとは想像していなかったので、身体に合う処方を見つければ、アトピー性皮膚炎も治るのでは?と期待しました。
以降、漢方薬の勉強を本格的に始め、自分の身体を使い色々な漢方薬を試みました。勉強会で知った処方でよさそうなものがあればすぐに試し、本で読んでよさそうなものがあれば内服してみました。このなかで記憶に残っている処方は、五苓散,酸棗仁湯,黄耆建中湯加地黄です。五苓散を内服するとどんどん症状が改善し、漢方薬の力は結構すごいな!と改めて感じました。けれども、3か月くらい内服し続けると、身体に力が入らなくなり元気がなくなりました。なんかおかしいな?と思いながら内服を続けていると、髪の毛も多く抜けはじめ、これではハゲてしまうとあせった記憶があります。内服中止以降は、身体の気力も戻り、髪も抜けなくなりました。これより、沢瀉,猪苓は身体の気を抜く、特に膀胱経の気を抜くのだなということがわかりました(症状がひどい時の対処療法として五苓散は有効であると考えています)。酸棗仁湯を飲んだときは、たいへんびっくりしました。なんと、身体に出ていた皮膚炎の症状が動き、すべて下肢、正確には両下肢の後ろ側(アキレス腱の上あたり)に症状が集約してしまいました。アトピー性皮膚炎の症状は、経絡に沿って動くのだな~と実感できた処方でした。最後に黄耆建中湯加地黄です。ちょうど夏の真っ盛りに飲んだのですが、3日もしない間に、症状がすべて改善しました。これでもう良くなった!アトピー性皮膚炎で悩むこともなくなった!とそのときは大変喜びました。しかし、秋になって再び症状が出現し、薬効も少なくなりました。この処方から、季節の移り変わりに沿って身体は変化すること、処方を決定するときは季節も考えないといけないということを学びました。
これらの経験を通して私が感じていることは、アトピー性皮膚炎の症状は経絡に沿ってでている?漢方薬によって症状の7-8割は改善するのでは?ということです。現在、私がアトピー性皮膚炎に効果があると考えているのは(少し専門的になりますが)、症状が膀胱経~小腸経にあるときは桂枝を中心とした桂枝湯,黄耆建中湯などの処方、症状が胃経(以降)に出ている時(この場合症状が全身に広がっていることが多いです)は桂枝,人参,石膏の入っている白虎加人参桂枝湯です。もちろん症例によっては、補剤,駆瘀血なども加減や、時には別の処方を選択する必要があるとも考えています。
幸い、私のアトピー性皮膚炎は良くなり、今は症状がありません。漢方薬で全てが治った!といいたいところなのですが、先にも述べたとおり漢方薬では7-8割の改善まででした。治癒への最後の一押しは、自宅から離れたことがきっかけで、“こころ”の問題、ストレスの問題が改善したことでした。知らず知らずに、私自身で私の“こころ”を縛り付けていた、このことに気がついた時から、症状は良くなっていきました。ある本で読んだのですが、支配的な親をもつ子供にアトピー性皮膚炎は多いそうです。私もこの意見に賛成です。支配的といっても、表面だって行っているわけではありません。知らない間に「あれしなさい」「これしなさい」「こうでなくてはだめ!」という言葉が多く出ている家庭で、アトピー性皮膚炎が多いのでは?と感じています。また、その言葉に対して、“しゅん”と委縮している子供ではなく、どちらかというと反発するくらい元気(エネルギー)のある子供で、症状がでている印象です。私の場合、いわゆる教育熱心な家庭で育ち、いつのまにか“こころ”に制限を感じていたようです(家では、けっこう自由になんでもやることができ、家を離れるまでは制限していたなど夢にも思っていませんでした)。なかなか、症状が改善しないときは、知らず知らずの間に、自分自身で自分の“こころ”を制限していないかチェックしてみる(チェックしてもらう)とよいでしょう。
結局、アトピー性皮膚炎の治療には、西洋医学,東洋医学,“こころ”の医学、すべての医学が必要だということを学びました。症状がとても強い時は西洋医学が有効です。東洋医学は慢性期に最も力を発揮します。そして、“こころ”の問題も忘れず対応することが大切であるということです。最終的に、当たり前の結論にたどり着いたわけですが、当たり前のことを行う難しさを、漢方薬,アトピー性皮膚炎から学んだような気がします。
平本 哲哉  
1998~2000年 福島生協病院内科
2001年   小泉治療院(東洋医学)
2002年   九州大学病院心療内科
2003~2004年   中部労災病院心療内科
2005年~   九州大学大学院医学研究院心身医学
内科学会認定医
東洋医学学会専門医
心身医学学会専門医
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