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| 漢方医学は、専門分野の如何を問わず、足を踏み入れた者は必ず魅了されるであろう不思議な魅力と懐の広さを持ち合わせた分野のように思えます。私が漢方にはまるきっかけになった場が、心療内科医として勤務していた麻生飯塚病院でした。ここでは、色んな患者さんとの出会いがありましたが、当初私が苦手とする患者さんの一群がありました。「雨降り前に頭が痛くなる」とか、「生理前になるとイライラが止まらない」とか、「体が冷えると気持ちが落ち込んでくる」といった訴えであり、「体質の問題でしょうね」とお茶を濁していたものの、内心忸怩たる思いでいっぱいでした。幸い飯塚病院は漢方診療のメッカであり、漢方の勉強会に参加し始めたことをきっかけに、エキス製剤を外来で使用してみると、件の患者さん達の症状に次々と改善が起こり始めるではありませんか。そうなると人間現金なもので、「もっと患者さんに喜んでもらいたい」という欲も大きくなり、漢方に傾倒していくことになったのでした。その後ビギナーズラックの限界を思い知り、正しい漢方理論とスキルの習得を求めて昨年4月から鹿島労災病院和漢診療センター伊藤隆先生の下で目下漢方修行中の毎日です。 |
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| 心身症の患者さんたちは精神症状よりも身体症状で悩んでいることが多く、最初から心理的アプローチを行っても治療はうまくいきません。そのため身体から心に入るアプローチとして自律訓練法やバイオフィードバック療法、絶食療法などの治療法があるのですが、習得するまでの時間や個人差、治療設備に関する問題が出てきます。その点で漢方薬は安価で誰にでも使用することができ、証が一致すれば即効性も期待できる極めて有用な治療ツールと捉えられます。漢方薬で改善した患者さんの中には、これまで苦しんできた身体症状が持っていた意味やメカニズムについて洞察や言語化がドラマチックに進む方も多く、私自身が患者さんの内的な変化に心を動かされる場面もしばしばありました。 |
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| 逆に身体症状の改善にとらわれる余り、手痛い失敗を経験したこともあります。抑うつや不安が強いアトピー性皮膚炎の患者さんでしたが、加味逍遥散の内服により劇的に皮膚症状は改善したのですが、その後一時的に抑うつや希死年慮の高まりが見られたのです。振り返ってみれば身体症状という患者さんにとっての「安全弁」を急速に消失させてしまったことによるリバウンドとも解釈できるケースでした。それまで身体症状の改善は治療者にとっても患者さんにとっても喜ばしいことと単純に考えていた私ですが、このケースを経験してからは、症状が持つ意味に関して以前よりも慎重に考えるようになった気がします。 |
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| 近年、精神科や心療内科領域においても漢方薬のpsycho-neuro-immunological modulatorとしての働きに注目が集まっています。偽性アルドステロン症や間質性肺炎、薬剤性肝障害といった器質的な副作用に関しては、以前より留意されるようになってきたようですが、身体症状によってマスクされている本当の問題や症状改善後の心理的フォローに関しても我々は細心の注意を払うべきなのかもしれません。 |
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