漢方と腎
    司生堂クリニック 院長/松田 弘之

漢方の基本概念には、陰陽、虚実、表裏、寒熱などとともに五臓六腑(六臓六腑ともいう)臓器別の概念も存在する。
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その中に腎つまり腎臓という概念がある。ただし、これは現代医学でいうところの腎臓とは必ずしも一致したものではない。つまり、腎の衰えを示す腎虚とは必ずしも西洋医学で言う腎機能障害のことではない。漢方でいう腎とは生命エネルギーを貯蔵する場所とされ、その衰えは現代医学的には加齢現象と理解させることもある。そして、その役割は成長、発育、生殖能を制御し、骨・歯牙の形成・維持を行い、水分代謝の調節、呼吸能の維持、思考力、判断力、集中力の維持とされるが1)、まずは、加齢現象に関わるもの、たとえば、骨、筋、神経を含めて関節、眼(半分は肝の支配)、耳の疾患、そして、腎臓を含めた泌尿器系疾患であり小水との関連もあり、小水は水分代謝に通じるため、水の異常、つまり水毒とも関連する。水毒とは例えば、めまい、耳鳴り、立ちくらみ、頭痛、肩こり、嘔気・嘔吐、胃の不快感、下痢、浮腫、鼻炎や花粉症などの症状との関連である。そして、腎の衰えを腎虚・水毒と言うこともある。
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当院を訪れる患者さんの中には、初診時に本来は複数の科を受診すべき複数の個所の訴えをされ、4つ5つの以上の症状を一度に挙げて、全部直してほしいと訴えられる方が少なくない。話しを聞くだけでも1時間近くかかる場合もある。西洋医学の診察ではありえない光景である。但し、いくつもの訴えであっても、それをなんとかできる場合もある(いつでもではない)のが漢方の面白いところである。というのは、いくつもの症状があっても、それが、一見、複数の科の疾患であっても根っこが一つという場合である。例えば、腎が虚している場合で整形外科的な関節症状に加え、めまい・耳鳴りなどの耳鼻科的異常、疲れ眼という眼科的異常に加えて頭痛など脳外科的異常が存在する患者さんの場合、腎虚・水毒の処方を注意深く使用していくと全て改善する場合もある。 また、腎虚・水毒の患者さんに本来の訴えの治療をしていく際に、頭痛や肩こりが楽になったとか浮腫みが取れたなど当初は訴えていなかった症状の改善を喜ばれることも漢方の治療をされている先生方ではよく経験されることと思う。
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自験例を挙げてみる、頻回な片頭痛と立ちくらみを主訴とした33才の女性に対し、証より加味逍遥散と呉茱萸湯の併用を行い、本来の症状の改善と前後して、羞恥心から訴えもせず、泌尿器科にも行かないで、一人悩んでいた腹圧性尿失禁が改善したと大変喜ばれたことがあり、2006年の東洋医学会で報告した。この場合、腎虚だけでなく、加味逍遥散の駆瘀血効果、また、両処方の温補効果そして何より証の一致の結果と思われるが、漢方をやっていることを自分自身とても幸せに感じる瞬間である。
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漢方とは魔法でもなんでもない。しかし、西洋医学とは全く異なる概念で形成されており、西洋医学とは異なった効果を示すのは事実である。ただし、そこには漢方医学として裏付けとなる理論が存在するのである。今後もより一層の精進を行い、多くの患者さんの期待に応えられるようになりたいと心から願うものである。
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参考文献:1)寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学、医学書院
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松田 弘之  
1958年 東京巣鴨生まれ
1977年   東海大学医学部入学
1983年   同大卒業後、東京慈恵医科大学病院内科研修医
1985年   東京慈恵医科大学 (現)腎臓高血圧内科へ入局
1996年   医学博士
2000年   同大退局後、巣鴨地蔵通り商店街に
司生堂クリニック(内科、漢方、アレルギー科)を開業
2006年   東海大学非常勤講師
尚、漢方医学は石川友章先生に師事、
鍼灸医学は故竹之内診佐夫、故竹之内三志先生に師事した。
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