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| 高名な先生方が名を連ねておられる中に私などが顔を出すのは大変に恐縮である。しかし拝読させて頂くと、諸先生が御自分の専門を確立されてから東洋医学に足を踏み入れたの対して、私は卒後3年目から漢方と付き合い始めている。この違いはあるが、逆に自分のケースは割と典型的なのではないかとも思う。現在までの経緯を記してみたい。 |
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| 学生時代、漢方といえばオマジナイと大して変わらないものであるというぐらいの認識しかなかった。2005年卒の私が在学していたころの母校には東洋医学関連の講座は無かったし、市内にも東洋医学で有名なクリニックなどはなかったように思う。学内にサークルはあった(長崎大学漢方医学研究会)が、級友からテキストを見せてもらい、五行説が目に入った瞬間に「これは役に立たない」と、まるで興味を失くしてしまった。東洋思想を囓っていただけに、実際に今学んでいる西洋医学とまったく相容れないことを感じたからかもしれない。 |
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| 卒後、脳神経外科専門病院に就職して初期研修も終わった頃に、病棟医である私は漢方薬を処方されている患者と出会うことになる。御多聞に漏れず、某大手メーカーのエキス剤であるわけだが、処方をみて、適応をみて、なぜこの薬がこの患者に出されているのかさっぱり分からない。たしか高齢女性、脳血栓症のかただったが、加味逍遙散だった。しかしここで、学生時代のように放り投げることにはならなかった。「まったく効かないのなら処方されているわけがない」と思ったわけだ。西洋医学的処方も見様見真似で出している段階で、このように感じたことは御勘弁願いたい。ただ、実際に現場で漢方薬が使われているという事実は、確かに私の思考回路のどこかでなにかを接続させたのだ。 |
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| この頃、画像も読めないし鑑別も出来ないわけで、我ながらまだ早いとは感じたが、脳外科外来を週1回受け持つこととなった。あるとき、睡眠薬大量服用による自殺企図の既往がある患者……この救急症例を、なぜか脳神経外科の私が受け持った……が頭痛を訴えて受診したのだが、偶然にまた私が診ることとなった。少し小柄だが中肉中背、動きも機敏で訴えも比較的はっきりしている。眉間に皺を寄せた、暗い表情をしていた。神経学的所見、画像所見はともに問題なかった(ように思えた)。診断名としては緊張性頭痛で、消炎鎮痛剤と中枢性筋弛緩薬、なんならマイナートランキライザーもつけるか、というところである。 |
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| しかし、ここでなぜか葛根湯を出した。今となれば、どのような根拠で処方したのかは思い出せない。頭痛に効く漢方、などというリーフレットでも読んだのかもしれない。西洋薬はあまり服用したくない、と患者がいったのかもしれない。確かなのは、肩こりを訴えていたことだ。試しに、ということで出したのだろう。既往が既往なので、どうにかしてあげたい、と思ったことは覚えている。これが劇的に効いた。2週間後に来診した彼女は、本当になんというかパーッとした顔をしていた。「すごく良くなりました先生!身体が楽になりました」 自信もなく処方した当方がビックリした。一時期やめてみたが、患者自身が服用したほうが快調ということで、そのまま継続した。副鼻腔炎気味、ということで加辛夷川芎に転方してみたりもしたが、結局私が転勤するまで続けたと思う。 |
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| このほか末梢性眩暈の女性に桂枝茯苓丸、視床出血後の難治性疼痛に当帰四逆加呉茱萸生姜湯、脳卒中後のうつに六君子湯などなど……。奏功例がいくつかある。ただ、本格的に勉強し始めてからは上記葛根湯の症例のような感動は味わっていない。効くと思って処方しているからでもあろう。しかし結局は最初の感動のために(……のせいで?)、東洋医学を学び漢方を処方し続けていることは間違いない。問題はこの感動を醒めさせないことである。これには自分だけでなく、外部からの力も必要である。色々考えて、本格的に東洋医学を学べる施設に移動した。 |
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| 現在、私は鹿島労災病院和漢診療センターの伊藤隆先生に師事している。ただし、自分の中の基本的な思考は故山本巌先生の方法論を参考にさせて頂いている。漢方には色々な流派があり、その流派のなかでもまた医師ごとに考え方が異なる。これが漢方の普及を阻む1つの要因なのは確かなことである。しかし西洋医学でもこれは同じことである。あまり相違に拘ると、逆に前に進みにくいのではないかと思う。大事なのは「正師につき、散木とならないこと」であるとよくいわれる。なにも師のやりかた全てを頭から肯定する必要はなく、矛盾なく消化していければ良いのではないかと考えている。なにかが掴めるまで、自分の中で方針が立つまでは伊藤先生のやり方をともかくも学ばせて頂くつもりである。漢方は続けなければそこで終わりである。 |
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| 以上が今までの漢方との付き合いである。まあお粗末なこと限りないが、当然ながら十人いれば十人なりの漢方との関係がある。漢方を指導される立場の先生がたに、「こんなこと考えてる素人もいるんだよ」、ということをお見せし、御指導して頂ければ幸甚である。 |
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