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| 前回は、脈診で腎虚が分かる、という話でしたが、尺脈を沈取して、その触れ具合で触れるか、弱いか、触れないか、を判定するものでした。しかし、この判定はあくまでも診察者の主観によるものであり、決して客観化できるものではありません。では、腎虚を推し量るもう一つの指標である、臍下不仁はどうでしょうか? 胸脇苦満、心下痞硬、胃内停水、瘀血の圧痛、そして臍下不仁などなど、漢方診療にとって重要な腹診所見のうち、胃内停水は音の情報ですが、列挙した他の所見はすべて圧ないし痛みの情報です。ならば、数値化できるのではないか、そういう発想で臍下不仁だけでも測定できないか、と考え始めたのが20年近く前のことでした。折しも当時、あるスナックで隣り合わせた男性が同じ出身高校の一年後輩、そして医療器機メーカーの社長、という人でした。酔った勢いでそのアイデアの話をしたら強く関心を示してくれましたが、その時はその場限りでした。その頃はニューヨークでエイズと漢方に関する仕事に2年間携わり、帰国しばらく経って、という時期でしたが、日本のエイズ医療の遅れを実感した時期でもあり、何とかせねば、と啓蒙活動も積極的に始め、リン・S・ベイカー先生の著書である“You and HIV” を翻訳出版もし(1)、気付いたら時の人となって講演依頼も増え、多忙を極め、漢方の宮本ではなく、エイズの宮本とまで呼ばれたこともありました。その多忙も引き金となってか、大病を患い、退院後、件の社長からは自社製の血圧計をお見舞いにもらったりもしました。そうこうするうちに山口大学への転職が決まり、新しい環境で漢方に専念することになりましたが、すぐにミレニアムを迎え、何とか20世紀中に腹診計の足がかりを、と思い、そういう器械がなければ自分で作るしかない、と件の社長に改めて腹診計製作を相談。自分も物作りが好きですからと、社長自らが私のアイデアを元に一台作ってくれましたが、これが使いものにならず、ちゃんと使えるものを作るためには、と関連会社2社も参加して設計部門、機構部門、電気部門に分かれたチームを結成、本格的に製作が始まりました。その後、改良を重ね、2002年には2号機、2003年には3号機、そして2004年には4号機(Digital Abdominal Diagnometer(DAD KM-04)が完成、これは今でもデータ取得には十分実用的なポータブルタイプとしては最終製品とも言えるものです。
機器の開発中はいつも、漢方数千年の歴史上類を見ないものを作っているのだ、歴史の中で仕事をしているのだ、という興奮を感じていました。(2)(4) |
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| 測定方法は、上腹部と下腹部に指を当てて腹力を測る代わりに、機器下部のプローブを腹部に垂直に押し当て、水平方向から見て2cm沈んだところでプローブを腹壁から外せば、その圧が記録され、上腹部と下腹部の圧の比(インデックス)まで自動的に計算してくれるものです。インデックスで1.5あれば臍下不仁あり(評価は+)と判定できる、というのが永年の経験から得られた値ですが、++ならば、2.0~2.5、+++なら3.0前後ないしそれ以上、で表されます。 |
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ここで症例を・・・
65才女性、主訴は数十年に及ぶ不眠、西洋薬だけでなく、漢方薬もいろいろ試し、私も知っている高名な先生にかかっても効果なし、冷えも強く湯冷めがひどいので風呂に何年もつかっていないくらいということでした。そこで、脈を診ますと、左尺弱、腹部では臍下不仁が++、冷えも強いので、証からは補腎と温裏が必要と考え、むくみはあまりないとのことで、まず八味地黄丸を1週間飲んでいただくことにしました。7日後が2診目でしたが、3日くらいはあまり変わりはなかったが眠剤は飲まずにいたとのこと、4日目から効き始め、眠剤なしで眠れるようになり、夜中に目が覚めてもまたすぐ眠れ、こんなによく、かつ早く効いてビックリしている、いままでは大袈裟に言えば地獄の日々でしたが、これからはいい人生が送れそうです、と喜んでいただきました。第2診では左尺脈に若干力が出てきており、臍下不仁は++(インデックスでは2.31)
でした。第2診目で処方は4週間分出しましたが、第3診ではおそらく腹力も出てくることが期待されます。これまでの経験では、腹診計によるインデックスの変化は治療効果と明らかな相関が認められ、高齢者でも若い人並みの臍下不仁なしと判定できるまでに腹力が充実してくると同時にカゼを引きにくくなった、膀胱炎にかかりにくくなった、などの効果も認められています(3)。このような患者さんでも、しばらく受診がないまま、ある日再診で来られたときに、最近また膀胱炎が出ています、という状態では臍下不仁が認められ、インデックスが2以上を示す、ということはしばしばでした。 |
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| インデックス低値が続いている状態で、突然数値が高くなった場合は次の週にはカゼを引いた、ということもありますし、妊娠が成立していた、という事例もありましたが、この点では妊娠判定器としても応用できるのではないか、と思ったこともありました。 |
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| さらにアトピーの患者さんでは胸脇苦満は結構強い場合が多いのですが、実はこの腹診計は胸脇苦満も測定でき、アトピー治療がうまくいって皮膚の状態が落ち着くと胸脇苦満なしと判定できる状態にもなるのです。ところが、皮膚の状態は良いのに胸脇苦満が出てそれは腹診計でも同様に高値を示しますが、このようなとき、実は患者さんがカゼを引いて5日目だった、ということも繰り返し経験しました。傷寒五六日、胸脇苦満・・・・という下りが傷寒論には記載されていますが、これを知ったときは、傷寒論に記載されたことを1800年後に科学的に数値的に確認できたんだ!!、という興奮も覚えました。 |
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| 妊娠や胸脇苦満の話は蛇足ですが、臍下不仁を数値化できる、という点だけでも、この腹診計は漢方史上初、世界初の機器である!! と私は密かに思っているのです。 |
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| <参考文献、学会発表> |
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(1) |
エイズのことがよく分かる本(上・下)
HBJ出版局、Lynn S.Baker著、宮本康嗣翻訳、1992 |
| (2) |
第11回国際東洋医学会(2001、10月、ソウル)(Special lecture)
Koji Miyamoto, Kiwamu Okita
New Scientific Diagnosis for Abdominal Examination by Digital Abdominal
TJM(Traditional Japanese Medicine) Diagnometer |
| (3) |
第53回日本東洋医学会学術総会(2002、6月、名古屋)
松浦 達雄、宮本 康嗣
デジタル漢方腹診計による臍下不仁インデックスを指標に補腎剤を投与し、症状の改善を認めた3例 |
| (4) |
第19回日本和漢医薬学会大会(2002、8月、千葉)
宮本康嗣、松浦達雄、佐伯俊英、立石憲治、山本秀之、飯塚章、深水哲二
デジタル漢方腹診計の開発ならびに腹証の数値化・客観化と臨床応用(とくに臍下不仁について) |
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