大黄の意外な薬能
    ウサイエン製薬株式会社代表取締役/野中 源一郎

研究は予期せぬ方向に進むものである。確か1970年頃だったと思うが、当時在籍していた九大薬学部生薬学教室に九州大手の某製薬会社から大黄配合の便秘薬が腹痛を起こすので原因を調べて欲しいとの依頼があった。その頃は大黄と言えば瀉下剤としての認識しかなく、また研究もすべて瀉下作用の解明を目標としたものばかりであった。ところが、よく調べてみると大黄は西洋医学的には単に瀉下、健胃剤とされていたが、中国歴代の本草書には瘀血、留飲(神農本草経)、水腫、煩熱(甄権)、関節痛(大明)、黄疸、下痢赤白、潮熱譫語(本草綱目)など多様な疾患に対しての効果が記載されている。また、漢方においても、発熱性の感染性疾患(小承気湯)、湿熱による黄疸(茵蔯蒿湯)、熱性の痔出血(乙字湯)、打撲(桃核承気湯)などへの効果を目標に多くの方剤に配合されているではないか。大黄の薬能がこれほど多様であるとは全く意外であった。それ以降、大黄の漢方医学的薬能の解明に従事することになり、各種大黄から100数十種の化合物を分離すると共に伝承的薬能を科学的に明らかにした。
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次は私が1年半のアメリカ出張から帰国してすぐの話である。当時(1978年)の九大薬学部西岡五夫教授から富山医薬大の大浦彦吉教授が大黄の水抽出物をラットに投与すると血中の尿素窒素量(BUN)の顕著な低下作用があるそうなのでこの活性成分を調べて欲しいとの依頼があった。そこで、とりあえずこれまで大黄から分離していた全成分を大浦教授に送り活性を調べて頂いたがすべてネガティブ。仕方なく新たな抽出分離に取り掛かったが、当時の分離手段はシリカゲルクロマトが主流で、分画したフラクションを送ってもすべてネガティブ。水抽出物には活性があるのに分画すると活性は消失。どうしてだろう。原因はシリカゲルであった。活性成分は吸着してしまいどうしても回収ができないのである。そこで、とにかく試料の回収ができる新たなクロマト担体の検索を行った。試料を流し回収率がほぼ100%か否かを試し、その当時唯一回収可能なゲル、セファデクスLH-20を見出した。これがもとでBUN低下成分として分子量約4,500の高分子プロシアニジンであるラタンニンの分離と構造解析に成功した。その後、この成果を多くの臨床の先生方にご利用頂き好評を得たが、単なる大黄末の投与では患者が下痢をして困るとの苦情が相次いだので、粉末を直接フライパンで軽く炒って瀉下成分のセンノサイド類を昇華により出来るだけ除去する方法を編み出した。
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最後は大黄の向精神作用についてである。1985年、北里研究所の大塚泰男所長から大黄配合の承気湯類並びに大黄単味の将軍湯なる方剤が精神科領域に応用されているとの話を聞いた。早速、文献を調べてみると明代の医学書「壽世保元」と江戸後期の「方與輗」に明らかに精神病様の症状に鎮静効果があることが記載されている。そこで、九大薬学部植木昭和教授、福岡大学薬学部藤原道弘教授の協力のもとラットを用いて行動薬理学的検討を行った。まず、水エキスについてであるが、20‐50mg/kgの投与によりラットの運動量、立ち上がり動作などの探索行動、メタンフェタミンによる運動量増加ならびにOBラット、THC投与によるラットの攻撃行動を有意に抑制した。また、大量投与による運動失調やカタレプシーなどの発現は全く認められなかった。大黄は副作用の無いすばらしい向精神病薬である。その後、有効成分の検索を行い活性成分として分子量2,800のプロシアニジン8量体のRG-タンニンを分離した。RG-タンニンは2‐5mg/kgの投与により同上の作用を示す。
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野中 源一郎  
昭和43年 九州大学薬学部卒業
昭和45年   九州大学大学院薬学研究科修士課程修了
昭和48年   九州大学薬学部文部教官助手
昭和53年   文部省在外研究員(米国Johns Hopkins大学医学部)
昭和59年   九州大学薬学部助教授
平成元年   長崎大学薬学部非常勤講師
平成5年   科学技術庁新技術事業団水谷植物情報物質研究プロジェクトリーダー
    中国科学院昆明植物研究所客員教授
平成7年   ウサイエン製薬株式会社代表取締役
平成8年   佐賀大学客員教授
平成11年   北見工業大学客員教授
平成14年   熊本大学客員教授
平成15年   中国科学院広西植物研究所客員教授
平成18年   桂林医科大学客員教授
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<専門分野>
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生薬学、天然物化学
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<研究分野>
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天然薬物の生理活性成分に関する化学的研究
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<所属学会>
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日本薬学会、日本東洋医学会、和漢医薬学会、日本生薬学会、日本薬剤師会
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