ニュースリリース

森健次郎の取締役副社長就任について

帝國製薬株式会社(本社:香川県東かがわ市、社長:村山昇作)は、京都大学名誉教授で高松赤十字病院前院長の森健次郎が本日付で、当社取締役副社長に就任したことをお知らせいたします。

森は、京都大学医学部を卒業後、米国 UCLA 留学を経て京都大学助教授、教授を歴任。その後パリ大学教授を務めた後、平成11年4月より高松赤十字病院院長を務めてまいりました。また、長期にわたり権威ある学会専門誌の編集委員を務めるかたわら多くの国際学会にも関与するなど麻酔学の権威として国際的に活躍してきたほか、高松赤十字病院においては同病院の院長として経営手腕を発揮しました。

当社は、「人類の痛みからの解放」をスローガンに、種々の疾患に起因する「痛み」の軽減と長年培った「貼付薬技術」を両軸とした領域に研究開発分野を絞り込み、国内にとどまらず積極的に国際展開を進めています。平成16年度においては増収増益となり過去最高益を大きく更新しましたが、森の副社長就任により研究開発力をさらに強化し、今後も「無冠のナンバーワン」「無名のオンリーワン」を旗印に限られた分野といえども世界に冠たる企業となるよう努力を続けてまいります。

副社長就任に関する森のコメントは以下のとおりです。

大学医学部卒業以来、40数年、一途に研究者の道を歩んでまいりました。私にはいわゆる調整能力に欠けるところがあるため、管理者ではなく、生涯一研究者として過ごすのが相応しいと考え、大学教授の定年後は病院長の職は極力お断りしてまいりましたが、縁あって、高松赤十字病院の院長を拝命しました。医者の世界は狭く、これでは世間知らずで、病院の経営は覚束ないと考え、高松では積極的に世間に顔を出させて頂きました。お陰で地元の業界に医師以外の多くの知人、友人に恵まれることとなりました。

病院の経営では、人生初めての苦労を味わいました。赤十字病院の定年は70歳です。私は心の奥底は佛教徒ですが、その歳になったら、かねてから好奇心をそそられていた旧約聖書と一神教を中心として、再び研究者の生活に戻ろうと考えていたところです。現在の私の余命は10年ほどと考え、時間を潰すための仕事をすることはなく、これまでの後始末をして人生を終わろうと考えていました。

この度、讃岐で得た医師でない新しい友人の方々のお世話で、独自性と云う意味で世界的な企業である帝國製薬で研究に携わってはどうかとのお誘いを受けました。赤十字病院の院長としてお世話になった地域にご恩返しができるのみでなく、私の余生を捧げる価値のある仕事ができるのではと考え、深い感謝の気持ちでお受けする決心をした次第です。

痛みは貧困とともに人類の最大の苦悩です。貧困は我慢すれば耐えられないことはありません。文化、或いは環境によって、貧困の苦しさは異なります。然し、痛みは文化、環境による違いはなく、世界共通、人類共通の苦しみです。痛みはそれが余りに強いとき、人はむしろ死によってでも逃れようとします。およそ40年前、「痛みの世界学会」が設立されました。その後、世界各国で研究が発展し、わが国も国際水準の研究が行われつつあります。

痛みは様々な原因により発生するため、患者を直接診ることのない純粋科学である基礎医学、即ち生理学、薬理学、解剖学など、また患者を診る臨床医学の広い分野では神経内科学、脳外科学、一般外科学等の他、麻酔学でも最重要課題の一つです。私自身、痛みは過去30数年の研究の中心となってまいりました。この度、縁あって地元香川県の企業を通じて「人類の痛みからの開放」に尽力できますことは無上の喜びです。

幸い私は麻酔学の分野のみでなく、上記の基礎医学の他、内科学、外科学等の臨床医学の広い領域でも、多くのすぐれた研究者と親交を持ってまいりました。これら各領域の世界の最高水準の研究者には個人的友人が多数あります。研究者にありがちの欠点として同時に複数のことは私の頭では処理できませんので、過去院長としての6年間、これらの友人とは疎縁となっておりました。この度、これら多くの専門領域の世界の友人との旧交を温め、上記の企業目的の具現化とその発展を目指そうと思っております。

私は当社の研究に対する理念、思想、更にはその輝かしい成果とそれに至った過程など、研究所の方々と親しく話しあい、帝國製薬の全体像を理解することから開始したいと考えております。今後の研究の具体的な方向は、現在得られている最善の鎮痛薬、即ち麻薬の安全、且つ合理的な投与法の開発に最初に取り組むことになるのではないかと考えております。

また、現在得られている各種の鎮痛薬が、臨床のどのような場面で使用が可能か、即ち利用面の拡大を目指すなど過去の私の臨床家としての視点も研究の方向に取り入れていけるのではないかと考えております。将来の研究としては、痛みに対する挑戦の世界の趨勢を俯瞰し、誰も考えつかない新しい発想を模索しようと考えております。

一般論として研究を考えますと、宇宙論、或いは核物理学のような何十人、時に100人を超す研究者を擁する巨大科学もあります。然し、如何に巨大科学であろうとも、個々の研究者は、狭くとも専門家として独立した領域を持っているものです。研究所全体の大きな方向性はあるとしましても、社内の個々の研究者とは、一対一で親しく話しあい、それぞれ一人の独立した専門家としても誇りを持てるよう、若い人々を育てたいと念願しております。

平成17年4月1日
帝國製薬株式会社 取締役副社長・森 健次郎

参考情報

● 学歴・研究歴・職歴
昭和34年3月 京都大学医学部 卒業.
昭和34~35年 United States Air Force Hospital, Tokyo インターン
昭和35~39年 京都大学大学院 医学研究科(麻酔学専攻)
昭和40~42年 University of California at Los Angels, Brain Research Institute and Development of Pharmacology 留学
昭和42~46年 東京女子医科大学(麻酔学講座)講師~助教授
昭和46年12月 京都大学助教授(麻酔学講座)
昭和48年7月 京都大学教授(麻酔学講座)
平成10~11年 Universitaire de Bicetre, Hopitaux de Paris(パリ第11大学)客員教授(フランス政府教育省)
平成11年4月 高松赤十字病院院長
平成17年3月 高松赤十字病院院長退任

● 学会役員その他
昭和49年 日本麻酔学会評議員
昭和53~55年 日本麻酔学会医事紛争対策委員会委員
昭和55~60年 日本麻酔学会国際交流委員会委員(昭和60年 委員長)
昭和56~58年 日本麻酔学会理事
平成2~4年 日本麻酔学会理事
昭和63年~現在 世界麻酔学会理事
平成2年 アジア太平洋麻酔学会 学術委員
平成3年 日本疼痛学会会長
日本局所麻酔学会会長
平成6年 日本循環制御学会会長
平成7年 アメリカ麻酔学会 ASA PREANESTHESIA TASK FORCE 委員
平成8年 国際シンポジウム(ニュージーランド)「局所麻酔」学術委員